多くの国に、現代医療(西洋医学)とは異なった、その国独自の伝統医療が存在します。日本においては漢方がそれにあたります。外国では日本の代替医療(Alternative medicine)としてKampoの存在が知られています。漢方は中国の伝統医療と思われている方も多いかもしれませんが、漢方は古代中国の医療に由来しながらも、日本で進化した日本の伝統医療です。近年では漢方薬のエビデンスを作る研究もさかんに行われており、エビデンスに基づいてKampoを使用する医療も広がってきています。漢方医療が専門でなくても、私をはじめ多くの医師が漢方薬を処方しているのが現状です。
風邪薬としての葛根湯(かっこんとう)は良く知られていますが、葛根湯は風邪の初期に使用して身体の中から温めて発汗させて風邪を治す薬です。葛根湯には麻黄が含まれていますが、麻黄を多く含んだ麻黄湯(まおうとう)はインフルエンザにも良く効きます。インフルエンザの検査は発熱直後だと陰性に出てしまうことがあります。家族にインフルエンザの人がいるなど、インフルエンザの可能性が高いときには麻黄湯を試すのも良いかもしれません。また、葛根湯は慢性の肩こりに対しては長期間内服することもあります。
片頭痛でトリプタン製剤を内服しているひとも多いですが、片頭痛発作が頻回のひとには呉茱萸湯(ごしゅゆとう)を試すことを勧めます。呉茱萸湯を内服してから片頭痛の発作の回数が激減した患者さんに出会うことがしばしばあります。トリプタン製剤の使用頻度が減るだけでも大いに役立ちます。緊張型頭痛には釣藤散(ちょうとうさん)、気圧低下に伴う頭痛には五苓散(ごれいさん)も効果が期待できます。
過敏性腸症候群ですぐに下痢する人には桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)が良く効きます。近年ではイリボーという西洋薬が良く使われていますが、効果が十分ではない人は併用してみても良いかもしれません。その他、漢方の専門家でない私でも処方する頻度の高い症状と漢方薬の例を示します。
女性の更年期障害に桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、加味逍遙散(かみしょうようさん)、こむら返りに芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)、便秘に麻子仁丸(ましにんがん)、桃核承気湯(とうかくじょうきとう)、めまいに五苓散(ごれいさん)、苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)、夜間頻尿に八味地黄丸(はちみじおうがん)、咽喉頭違和感に半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)、胃もたれ・機能性ディスペプシアに六君子湯(りっくんしとう)、花粉症などのアレルギー性鼻炎に小青竜湯(しょうせいりゅうとう)、慢性咳嗽に麦門冬湯(ばくもんどうとう)、腰部より下肢にかけての筋肉、関節、神経痛に疎経活血湯(そけいかっけつとう)、等々、これらは一般内科で処方されている漢方薬の例ですが、効果が明らかな漢方薬が他にも数多く存在します。西洋医学に基づいた治療で今一つしっくりこないと感じられている方は、一度、漢方薬を試してみることをお勧めします。
特に専門医による漢方治療をご希望される方は2024年4月から始まる漢方外来を受診されることをお勧めします。漢方外来は火曜日の夕方17:00~19:00で、担当するのは東京医科大学病院・漢方医学センター長の及川哲郎教授です。ご期待ください。