ニキビの大きな原因のひとつがアクネ菌(Cutibacterium acnes)の毛包内増殖です。ニキビの基本的な治療は、アクネ菌に対して感受性がある抗菌薬を外用あるいは内服することです。しかし最近の国内の報告1)によると、クリンダマイシン(ダラシン®など)をはじめ、いくつかの抗菌薬に対して耐性(効かない)菌の割合が分離菌の約60%に増加しているので、薬剤の選択には注意が必要です。
ニキビの治療には抗菌作用と抗炎症効果を併せ持つ抗菌薬が伝統的に使用されてきました。代表的な抗菌薬として、内服薬にはテトラサイクリン系(ドキシサイクリン(ビブラマイシン®)A、ミノサイクリン(ミノマイシン®)A’)、マクロライド系(ロキシスロマイシン(ルリッド®)B、クラリスロマイシン(クラリス®)C1)、ファロペネム(ファロム®)B、ニューキノロン系(レボフロキサシンC1、シプロフロキサシンC1)、外用薬にはクリンダマイシン(ダラシン®A,デュアック®A)、ニューキノロン系(アクアチム®A、ゼビアックス®A)などがあります(ABCは診療ガイドライン2)に基づく推奨度: A;強く推奨, B,C1,C2, D;推奨しない)。同じ系統でも内服と外用で推奨度が異なっているのは主に臨床試験が行われているかどうかによります。
病原菌と抗菌薬の関係は常にイタチごっこです。特定の抗菌薬を長く使い続ければ、病原菌は耐性遺伝子を獲得して生き延びることができるようになり、効かなくなります。そこで耐性菌にも有効な新たな抗菌薬が開発されるという繰り返しの歴史です。ニキビに使用する抗菌薬にも当てはまります。報告1)によれば、国内でニキビから分離されたアクネ菌は2020年の段階でクリンダマイシンとマクロライド系薬剤に約60%が耐性となっていました。さらに、この率は2013年に比較すると上昇していました。現在、主力で使用されているニューキノロン系とテトラサイクリン系に対する耐性菌化率は10%前後でしたが、今後上昇する可能性が指摘されています。
それでは、最後に2024年の時点でどの抗菌薬を使うのがベストなのか検討します。内服薬ではテトラサイクリン系、外用薬ではニューキノロン系がお勧めです。テトラサイクリン系のうち、効果はドキシサイクリン、ミノサイクリンともにほぼ同等と評価されていますが、ミノサイクリンには、めまい、色素沈着、肝障害、薬疹などの副作用が多いので推奨レベルが下がります。米国のガイドライン3)でもドキシサイクリンの内服が推奨されています。外用では耐性菌の割合の増加から、ニューキノロン系(アクアチム®、ゼビアックス®)がお勧めです。これらの内服・外用薬剤は急性期の赤ニキビにはよく効きますが、漫然と続けていると耐性菌を生むことになります。炎症が落ち着いたら、早めに過酸化ベンゾイル(ベピオ®、デュアック®、エピデュオ®)やアダパレン(ディフェリン®、エピデュオ®)に切り替えることをお勧めします。米国のガイドライン3)ではデュアック®のようなクリンダマイシンと非特異的抗菌作用を有する過酸化ベンゾイルの合剤が耐性菌の発生を抑制する可能性を指摘しています。
文献
1)J Dermatol 2023; 50: 793-799.
2)尋常性ざ瘡・酒さ治療ガイドライン 日皮会誌 2023; 133: 407-450.
3)J Am Acad Dermatol 2024 Jan 30.
西新宿サテライトクリニック 坪井 良治
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