院長ブログ14  ニキビ治療 (2025) 機器による治療も含めて | 新宿区西新宿の皮膚科・内科 | 西新宿サテライトクリニック
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院長ブログ14  ニキビ治療 (2025) 機器による治療も含めて

 ニキビは若い人に多く、繰り返す病気の性質のため、生活の質QOLに大きく影響します。最近では、レーザーなど機器を用いた治療も一般的になりつつあり、保険適応のなかったイソトレチノインの内服についても、国内臨床試験が進行中で、1-2年以内には保険診療のもとで使用できるようになると予測されます。ただし、重症ニキビが対象であり、副作用に十分注意して内服することが必要です。ここでは、日米のニキビ治療ガイドライン1)2)を参考にしながら、最新のニキビ治療について情報提供したいと思います。

 ニキビの治療を始めるにあたっては、まず自分のニキビの重症度やタイプ、肌質を理解しておくことが重要です。日本では、ニキビの急性期の重症度は片顔の赤ニキビの数で決定されます1)。軽症;5個以下、中等症; 6~20個、重症21~50個、最重症51個以上。自分では重症と思っても実際には中等症以下の人が大部分です。さらに、深く大きなしこりや袋状のかたまり(嚢腫)、凹凸のニキビあとがあるかどうかも治療方法の選択に影響します。また、肌質についても、ニキビ薬を外用しても荒れしないのか、アトピー性皮膚炎などが背景にあって、すぐに乾燥や刺激感を感じるかによっても治療法が異なります。タイプ別に治療法を説明しましょう。 

急性期(赤ニキビ:紅斑・丘疹・膿疱)の治療

軽症の場合には、外用抗菌薬を使用することになります。クリンダマイシン(ダラシン®など)が従来から使われていますが、院長ブログ13にも書いたように、約60%に耐性菌が認められているのでニューキノロン系外用薬(アクアチム®など、ゼビアックス®) をお勧めします。肌荒れしない人は非特異的な抗菌作用とピーリング作用のある過酸化ベンゾイル(ベピオ®、デュアック®)と、ニキビ予防や白ニキビ、ニキビあと治療としてアダパレン(ディフェリン®など)の外用をお勧めします。アダパレンは角化抑制作用を持つビタミンA酸誘導体に属します。これら2つの薬剤は塗布後に皮膚が乾燥して、刺激感や発赤が出ることがあります。そのような症状が出た場合には外用を中止してください。症状が軽い場合には隔日塗布など、外用間隔をあけることで副作用を抑えることができます。クリンダマイシンやニューキノロン系外用薬を長期に使用することは、耐性菌の発生を誘発するので良いことではありません。しかし、アトピー性皮膚炎などで、どうしても肌荒れする人は抗菌薬治療を続けるしかないと思います。

 中等症の場合にはドキシサイクリン(ビブラマイシン®)などの抗菌薬の内服が追加になります。院長ブログ13に書いたように、内服薬の中では耐性菌割合と安全性の両面からドキシサイクリンをお勧めします。吐き気などの副作用を生じた場合にはマクロライド系抗生物質に変更することもできます。

慢性期の治療

 赤ニキビが落ち着いて、ニキビあとや白ニキビ、皮膚の凹凸の治療が主になった場合にはアダパレン(ディフェリン®など)と過酸化ベンゾイル(ベピオ®)、あるいはそれらの合剤であるエピデュオ®の外用がお勧めです。ただし、いずれの薬剤も肌荒れする人が多いです。どちらかだけに荒れる人もいます。私の個人的な印象として、荒れる頻度はエピデュオ® >ベピオ®=デュアック®>ディフェリン®です。塗る場所を限定して何度か試してみてから本格的に広い範囲に塗ってください。用法は1日1回夜に外用し、朝に洗い流します。荒れる場合には2-3日に1回外用します。乳液を塗った上から外用することもできますが、効果が落ちるのであまりお勧めしません。過酸化ベンゾイルはもともと化学薬品で漂白剤です。強い酸化作用があるので付着すると衣類が色落ちしますので注意してください。また他の薬剤に影響を与えて酸化変性させますので、クリンダマイシンが添加されたデュアック®は冷蔵保存になっています。しかし、3か月以内に使い切る場合には常温保存で問題ありません。肌荒れしない人はエピデュオ®を単独で外用するのが慢性期の治療としては一番効果的で、耐性菌を生じる可能性も少ないです。

重症ニキビの治療

 重症ニキビ(集簇性ざ瘡)の治療は上記の抗菌薬内服・外用にアダパレン・過酸化ベンゾイルを組み合わせて行いますが、十分ではありませんでした。米国では1982年にビタミンA酸誘導体であるイソトレチノインが認可され、重症ニキビの治療に効果を上げてきましたが、日本では副作用などのために認可されてきませんでした。しかし、並行輸入されたイソトレチノインが美容クリニックなどで安易に処方されて、その管理の甘さも問題となってきました。日本皮膚科学会の要請を受けて、重症ざ瘡患者を対象にイソトレチノインの国内臨床試験が現在進行中です。あと1-2年すれば、保険診療下に厳格に管理されて処方されるようになると思われます。

 ビタミンA酸誘導体はもともと抗がん剤として開発されたものですが、皮脂腺や角化の抑制作用があり、二次的にニキビ菌も減少させるので、ニキビ治療薬として開発されました。米国ガイドライン2)ではイソトレチノイン(アキュテイン®、イソトロイン®)の内服が中等症から重症のニキビに強く推奨されています。しかし、イソトレチノインの発売が1982年と古いため、中規模の臨床試験がいくつかある程度で、エビデンスの質は高くありません2)。その一つの臨床試験3)では0.1/0.5/1.0mg/kg体重/日の20週間内服で、いずれの用量でも有意に炎症性皮疹が軽快しました。副作用としては皮膚の乾燥、口唇炎、口内炎、結膜炎、皮疹、脱毛、肝機能障害、高脂血症などがありますが3)、もっとも問題なのは催奇形性です2)。精神神経系の異常や炎症性腸疾患との関連については結論が出てていません2)。妊娠中の女性の内服は禁忌ですが、イソトレチノインの内服後に妊娠が発覚した人もおり、1992年の米国の報告で、そのような症例が409例集積され、54%が人工中絶、7%が自然流産、18%が正常児、19%に奇形児が生まれました。そのため、米国ではiPLEDGE®というプログラムが用意され、同意書に署名のもと妊娠可能年齢の女性は投与前の妊娠テスト、内服1か月前から内服終了後1か月まで経口避妊薬を含む2種類の避妊方法の実施が義務付けられています。男性の内服については、精液への移行が微量として制限がありません。献血は内服終了から1か月間はできません。イソトレチノインの効果と副作用の詳細については、国内臨床試験の結果を待ちたいと思います。重症ニキビの人は、イソトレチノインの内服に追加して、次に述べる機器による治療を併用すると効果が上がります。それほど重症でない人は、イソトレチノインの外用版ともいえるアダパレンの外用で十分です。

 ニキビあとがケロイド状に盛り上がって硬くなっている場合には、保険診療のもとでステロイド(ケナコルト®)注射を定期的に行うのが効果的です。

機器を用いたニキビの治療

 最近の技術的な進歩により、レ-ザーなどの機器を用いたニキビ治療が盛んになってきました。ニキビあとの治療だけでなく、赤ニキビの治療手段としても有効です。対象は中等度以上のニキビ保有者です。ただし、自費診療となるので、施術料はかなり高額です。繰り返して実施する必要があります。通常のニキビ治療と併用することで、さらに治療効果を高めることができます。

 今話題の治療機器としては、FDAだけでなく、2025年5月に国内でも認可された1726nmダイオードレーザー(AviClear®など)があります。中等度以上のニキビ治療を対象にした初めての機器です。選択的に皮脂腺細胞を熱破壊します。ニキビあとの治療よりも赤ニキビの治療が得意です。米国で行われた臨床試験5)では、104人の中等度以上のニキビ患者を対象に、3週間ごとに3回照射して、経過を観察しました。その結果、26週間後には87.3%の人で炎症性ニキビが50%以上低下しました。また、41.8%の人でニキビがほとんどなくなりました。副作用はダウンタイム以外に、3週間以内に赤ニキビの一時的な悪化が観察されました。ニキビは半年をかけてゆっくり良くなるイメージなので、その間に通常治療やほかの機器治療を組み合わせて実施した方が効果的です。通常治療に反応しにくい妊娠可能年齢の女性は、イソトレチノインを内服するよりも機器による治療を追加した方が、副作用の点から勧められます。

 現時点で、速効性で赤ニキビにもニキビあとの治療にも効果が高いのはニードルRF(POTENZA®など)でしょう。RFは高周波(radiofrequency)の略で、ニードルRFは多数の細かい針を皮膚に刺し、電気メスの原理で真皮内の組織だけを焼くというものです。類似の機器にフラクショナルレーザーがあります。フラクショナルfractionalとは部分的という意味です。皮膚全面にエネルギーを照射するのではなく、ドット状に一部だけに深く照射し、ダウンタイム(回復するまの時間)や炎症反応を少なくして効果を下げないように工夫した機器です。使う波長によりいくつかの機器があります。文献は引用しませんが、いずれの方法もほぼ同等な効果が報告されています。方法により施術後の痛み、炎症、ダウンタイムが少し異なるので、話をよく聞いてから治療を受けてください(当科では機器による治療は実施していません)。

その他の治療に対するコメント

 米国ガイドライン2)では経口避妊薬ピル(エストロゲン・プロゲステロン製剤)も抗男性ホルモン作用から推奨されています。イソトレチノイン内服では避妊が必要なので、両方の目的で処方されています。利尿薬であるスピロノラクトン2)を抗男性ホルモン作用から内服している人を時に経験しますが、抗男性ホルモン作用をだすには高用量が必要で、作用も不確定なので推奨しません(院長ブログ27)。漢方薬は臨床試験が不十分で、コストパフォーマンスも悪いので推奨しません。米国のガイドライン2)には当然ですが、漢方薬の項目がありません。 ビタミン剤、特にB群、Cを内服している人がいますが、ニキビに有効であるとのエビデンスはありません。ガイドラインでも推奨していません。血糖が上がりにくい炭水化物の食事(low-glycemic index diet)がニキビを抑制するとの報告がありますが、不確定です2)。

文献
1) 尋常性ざ瘡・酒さ治療ガイドライン 日皮会誌 2023; 133: 407-450.   

2) J Am Acad Dermatol 2024 90:1006.e1-1006e30.  

3) J Am Acad Dermatol 1984 10: 490-496.

4) J Am Acad Dermatol 1992 26: 599-606.

5) J Am Acad Dermatol 2023 89: 703-710.

 

                         2025/09/01 西新宿サテライトクリニック 坪井 良治
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