「酒さ」は、一般的には「赤ら顔」と呼ばれていますが、中高年の顔面の頬(ほほ)が赤くなり、ニキビのような症状を呈する病気です。わが国でもメトロニダゾール(ロゼックッス®)ゲルが酒さの治療薬として使用できるようになりました。欧米や日本の酒さの診療ガイドライン1)-4)が最近改訂されましたので、これらを参照しながら、実践的な酒さの治療を考えてみましょう。
酒さとは
酒さの治療を始めるにあたっては、まず自分の酒さのタイプ(病型)と肌質を理解しておくことが重要です。酒さは顔面の眉間、鼻、頬(ほほ)、顎(あご)などに紅斑や血管拡張、ニキビのような赤いブツブツ(丘疹、膿疱)を生じる疾患です。慢性に経過し、痒みは通常ありません。30~50歳代の女性、しかも色白の人に多い傾向があります2)。有病率は欧州系の白人では大人の10%です4)。世界的には大人の5.5%とされています2)。病因は解明されていませんが、血管拡張には日光曝露、輻射熱などによる血管反応の異常、炎症には自然免疫、アクネ菌・ニキビダニなどの感染が悪化因子として考えられています2)。
酒さは以下の4つタイプ(病型)に分類されます:紅斑血管拡張型、丘疹膿疱型、鼻瘤、眼型。それぞれが個別に独立しているのではなく、重複しているのが実際です4)。紅斑血管拡張型はさらに、急に顔が赤くなるフラッシングflushingという症状のタイプ、持続的に赤ら顔で色が消えないないタイプ、細かい血管が網目状にたくさん認められる血管拡張タイプとあります。丘疹膿疱型はニキビに近いタイプで、赤いブツブツがたくさんできます。このタイプは保険診療で治療しやすいタイプです。鼻瘤(びりゅう)は鼻先に凹凸ができ、コブ状に盛り上がったもので、眼球結膜が赤くなる眼型とともに特殊です。大部分の人は紅斑血管拡張型だけか、丘疹膿疱を伴った紅斑血管拡張型に分類されます。日本では酒さにステロイドやプロトピックを外用して悪化させる人が多いので、酒さの治療を始める前に、これらの薬剤を中止することが最も重要です。
丘疹膿疱型の治療
丘疹膿疱型はニキビに近い状態で、保険診療で対応しやすいタイプです。メトロニダゾール(ロゼックッス®)は抗菌作用のある外用薬で、日本では唯一酒さに適応があります。しかし、肌荒れや刺激性皮膚炎を起こしやすいので、最初から使うのはお勧めしません。最初から使う場合は、外用する部位を限定して開始してください。用法は1日2回、3か月まで使用できるとなっていますが、最初は隔日1回くらいから始めた方が無難です。保険適用はありませんが、アゼライン酸外用薬(DRX AZAクリア®)も刺激性が高いので、同様の注意が必要です。疥癬に使用されるイベルメクチンクリームが欧米では酒さに使用されていますが2)-4)、わが国には剤形がありません。 副作用が少ないのは抗菌薬の外用・内服です。いずれもニキビの治療薬で、酒さには適応がありませんが、有効で肌荒れしません。院長ブログ14にも書いたように、ドキシサイクリン(ビブラマイシン®)の内服とニューキノロン系の外用薬(アクアチム®、ゼビアックス®) をお勧めします。炎症がある程度落ち着いたら、慢性期のニキビ治療薬であるアダパレン(ディフェリン®)か、メトロニダゾール(ロゼックッス®)の外用への変更をお勧めします。乾燥肌、アトピー肌で、この2薬剤で肌荒れする人は抗菌外用薬と保湿(保護)剤をうまく組み合わせて継続使用するしかないと思います。
重症な症例に対して、欧米のガイドライン2)-4)ではイソトレチノイン(アキュテイン®、イソトロイン®)の低用量0.25mg/kg内服が勧められていますが、わが国では認可されていません。非常に重症な症例には、類似薬で角化症に適応のあるレチノイド(チガソン®)を短期間使用することはできると思います。いずれの薬剤もビタミンA誘導体で、内服すると体内に蓄積し、催奇形性があります。
紅斑血管拡張型の治療
わが国では、この病型に対して有効な治療は保険診療にはありません。メトロニダゾール(ロゼックッス®)を外用しても、炎症を伴わない持続的な紅斑や血管拡張には効きません。漢方薬もきちんとした臨床試験がされておらず、ガイドライン1)でもC2(勧めない)になっています。
細かい血管が網目状に認められる血管拡張タイプでは、自費診療とはなりますが、レーザー治療が有効です(当院では対応していません)。特に赤血球の赤色に吸収波長を持つロングパルス色素レーザー(Vbeam®など)が有効で、血管が大きい場合にはロングパルスNd:YAGレーザー(Gentle YAG®など)と組み合わせて治療されることもあります1)-4)。シミ治療のレーザーは、どの美容皮膚科にも置いてありますが、上記のレーザーは置いてないクリニックが多いので、ネット広告で機種と価格をよく確認してから施術を受けられることをお勧めします。最後に、頬全体が赤くなっているだけのタイプは治療が難しいです。シミを少なくし、肌の状態を整えることを兼ねる場合には、光療法であるIPL(intense pulsed light)(Stellar M22®など)が、副作用が少なく、回数を重ねれば少し効果が得られます。海外では血管収縮作用のあるブリモニジン(日本では緑内障に適用)ゲルが使用されていますが2)3)、効果は外用した数時間のみです。また、プロプラノロール(降圧薬)の内服がフラッシングや持続的な紅斑に弱く推奨されています2)。いずれにせよ、このタイプに対する薬物治療で確実に有効なものはありません。
生活上の注意点
フラッシングや持続的紅斑は、薬物治療を行わなくても、生活上の工夫をすることでQOLを改善することができます。アルコール、日光曝露、熱い飲み物、辛い食べ物など悪化要因を避ける2)。皮膚の保湿、保護に努め、過度な洗浄はしないようにする。化粧品などによる接触皮膚炎を避けるため、種類を少なく、かぶれにくいものにする。戸外に出る場合には日焼け止めを外用する2)。不眠や不安が強い場合にはメンタル的なサポートを得る。短時間の改善であれば、皮膚を冷却して血管を収縮させることで、紅斑は一時的に改善できます。継続的には、コンシーラー(カバーメイク)で色を隠すのが効率的です。グラファ カバーマークオリジナル、資生堂 パーフェクトカバーなどがお勧めです。技術員に指導してもらうと、上手に赤ら顔を隠すことができます。
文献
1) 尋常性ざ瘡・酒さ治療ガイドライン 日皮会誌 2023; 133: 407-450.
2) Br J Dermatol 2021; 185: 725-735.
3) J Eur Acad Dermatol Venereol 2017; 31: 1775-1791.
4) J Clin Aesthet Dermatol 2020; 13; S17-S24.
2024/03/12西新宿サテライトクリニック 坪井 良治
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