JAK阻害薬のひとつ、ウパダシチニブ(リンヴォック®)は中等度以上のアトピー性皮膚炎に対して適用されています。しかし、円形脱毛症は約40%の確率でアトピー疾患を合併しますので、中等度以上のアトピー性皮膚炎を合併している円形脱毛症の患者様は、現在でも内服できます。おそらく1年後には、円形脱毛症に適用拡大され、アトピー性皮膚炎の合併がない人でも内服できるようになると予測されます。アトピー性皮膚炎では、ウパダシチニブの効果は他のJAK阻害薬に比較してやや高いことが知られています。円形脱毛症を合併するアトピー性皮膚炎の人で、当院でウパダシチニブを内服している人の治療実績を先行指標として報告します。また、人数は少ないですが、バリシチニブからウパダシチニブに変更した人の治療結果についても情報提供しますので参考にしてください。
2022年12月に処方を開始して2025年2月までに、円形脱毛症を合併するアトピー性皮膚炎の治療目的にウパダシチニブ(リンヴォック®)15mg錠を内服した人は25名でした(添付資料)。ウパダシチニブ投与の基準はEASIスコア16以上の中等度以上のアトピー性皮膚炎です。そのうち、院外を含めて6か月以上経過観察できた人は21人で、1人は副作用のために短期で内服中止となりました。新規にウパダシチニブを内服した11人とバリシチニブ(オルミエント®)4mg錠から切り替えた11人について有効性を評価しました。

新規にウパダシチニブを内服した11人のSALT20達成率は72.8%(8/11)、 SALT10達成率は72.8%(8/11)でした。SALT20達成率とは、治療により脱毛面積が20%以下になった人の割合です。ウパダシチニブはアトピー性皮膚炎に対して処方していますので、11人の中には脱毛面積が50%以下の人が2人含まれています。しかし、脱毛面積100% の人も8人含まれており、結果的に投与前平均脱毛面積86.6%は、他の薬剤の臨床試験とほぼ同等の重症度になっています。 効果が安定して良い状態を維持している人が多いためか、平均観察期間は19.7か月と長期になっています。SALT20を達成した人の特徴として、固定期間が平均3年と短いことです (未達成の人の固定期間平均31年)。症例数が少ないので正確な比較はできませんが、当院におけるバリシチニブのSALT20達成率は47.2%(51/108)(院長ブログ11)、リトレシチニブのSALT20達成率は50%(3/6)(院長ブログ10)でした。
次に、バリシチニブ(オルミエント®)4mg錠の内服効果が不十分で、ウパダシチニブ15mg錠に切り替えて内服した人の治療経過を11人について調査しました。変更して6か月未満で副作用中止になった人も有効性評価に含めました。円形脱毛症は季節や年度により病状が自然に変化する疾患なので、前後で2薬剤の効果を比較するのは難しいです。それを承知の上で、それぞれの薬剤の内服期間が6か月以上あり、変更までの空白期間が短く、変更後1年以内の評価としました。バリシチニブからウパダシチニブに切り替えた11人のSALT20達成率 は45.5%(5/11)、SALT10達成率 は36.4%(4/11)と比較的良い結果を示しました。SALT20を達成した人の固定期間(平均8.4年)は 未達成の人の固定期間(平均15.8年)に比較すると長いながらも半分でした。それぞれの薬剤の内服期間が6か月以上ある10人について、ウパダシチニブ変更後の効果を個々に調べてみました(添付資料)。その結果、バリシチニブを6か月以上内服しても脱毛面積の改善率が30%以下の5人は、ウパダシチニブに変更しても効果は上がりませんでした。しかし、残りの5人は、脱毛面積100%からまったく改善のなかった3人を含め、全員がSALT20を達成しました。なお、この5人のうち1人だけはバリシチニブで43%の脱毛面積の改善がありましたが、満足せず、最終的に比較的長期にウパダシチニブ30mg錠へ増量して脱毛面積0%を達成しています。この人以外には、評価に影響を与えるような長期増量はありませんでした。
副作用については添付資料の通りです。2回以上受診のあった23人中19人に副作用の申告がありました。表示は人数標記であり、複数回発熱があっても1人と記載されています。アトピー性皮膚炎と尋常性白斑の悪化を除き、いずれの症状も消失ないし治癒しています。発熱と体調不良の持続により内服を中止し、バリシチニブに変更して副作用がなかった人を1人経験しました。バリシチニブでも135人中97人に副作用の申告がありましたが(院長ブログ11)、43人がざ瘡であり、ウパダシチニブよりも症状が軽い印象です。ウパダシチニブでは、細菌感染症やウイルス感染症の頻度と重症度が確実に増加する印象です。アトピー性皮膚炎に対するウパダシチニブ内服治療(7.5mg, 15mg, 30mg錠)の国内市販直後調査1)では1486人に投与され、108人149件の副作用が報告されています。その内訳はざ瘡12件、悪心9件、発熱8件、ヘルペス性湿疹7件、帯状疱疹7件、CK増加6件、そう痒症5件、アトピー性皮膚炎4件、倦怠感4件、頭痛4件、腹痛4件、単純ヘルペス3件などです。重篤な副作用は3人4件で、ヘルペス性湿疹、感音性難聴、好中球数と白血球数減少でした。
最後に、以上の結果を踏まえて円形脱毛症に対するウパダシチニブの今後を展望してみたいと思います。現在、円形脱毛症への適用拡大をめざしてウパダシチニブ(リンヴォック®)の臨床試験が行われていますが、結果はまだ発表されていません。おそらく1年後には認可されるのではないかと思われます。現時点でも、当院における少数の治療経験から、効果をある程度推測することはできます。すでに書いたように、リンヴォック®15mg錠の効果はバリシチニブやリトレシチニブよりも良さそうです。また、バリシチニブが効果不十分でウパダシチニブに変更した人も、2人に1人は効果の増加が認められました。ウパダシチニブがバリシチニブよりも、どの程度効果が高いかを正確に言い表すことはできませんが、イメージ的には、2倍ではなく、1割増しでもなく、“3割増し程度“としておきます。これら3薬の効果を直接比較する臨床試験は今後も実施されないと思いますので、症例数は少ないですが、ここに報告した結果は貴重な情報になると思われます。 現在でも、中等度以上のアトピー性皮膚炎を合併した円形脱毛症の人は内服できますが、おそらく1年後からは円形脱毛症の病名だけでも内服できるようになります。円形脱毛症の人がJAK阻害薬を内服する場合、まず試してみる薬剤としては、効果がそこそこで、比較的安全性の高いバリシチニブ(オルミエント®)4mg錠の内服をお勧めします。リトレシチニブ(リットフーロ®)50mg錠も良いと思います。12歳以上15歳未満の人は、この薬剤しか選択できません。十分な効果が得られた場合には内服を継続する。いずれかの薬剤を6か月以上内服しても、ほとんど発毛効果が得られなかった場合には中止する。他の2薬剤に変更しても十分な効果は得られにくいです。その中間で、眉毛睫毛は生えたが、頭髪の発毛が十分でない人はウパダシチニブ(リンヴォック®)15mg錠に変更してみるのがよいと思います。ただし、感染症の副作用は増えますので、注意が必要です。脱毛面積100%で、固定期間が長い人は最初からウパダシチニブの内服がよいと思います。また、当院のデータにもあるように、バリシチニブでまったく効果がなくても、時にウパダシチニブで効果が出る人もいますので、是非試してみたい人は6か月をめどに内服してみるのは問題ないと思います。ウパダシチニブは30mg錠に増量することもできますが、増量すると、さらに副作用を生じやすくなるので、継続して内服することはせず、季節的変動などで脱毛が増えた時の一時的な増量にとどめる方がよいと考えます。いずれのJAK阻害薬も半減期が短く、作用のOn-Offがはっきりしています(日単位)。高熱や感染症などの副作用や予期せる事態が発生した場合には一時的に内服を中止することが重要です。
文献
1)アッヴィ合同会社資料(2022.4.作成 OT-RNQD-220001-1.0)
2025/04/04 西新宿サテライトクリニック 坪井 良治
©2024-2025 Tsuboi