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院長ブログ18 当院における円形脱毛症の治療手順と実績(2024)

 JAK阻害薬が発売されて2年間が経過し、日本における円形脱毛症の治療方法が大きく変わってきたことを実感しています。いまだ円形脱毛症を完全に治癒させる方法はありませんが、一部の最重症の人を除けば、病気をコントロールできる時代に入ってきたといえるでしょう。円形脱毛症診療ガイドラインも近々改訂されますので、それを見越しながら、当院での2024年時点での円形脱毛症の治療手順についてご説明します。

 円形脱毛症の治療方法の選択については、すでに当院ホームページ「円形脱毛症」の項目に「軽症」、「中等症」、「重症」、「急速進行型」 に分けて記載しています。ここでは、これまでの当院での治療実績を含めながら、優先順位をはっきりさせて症状別に治療手順を提案したいと思います。

 当院の治療実績をレセプト(診療報酬明細書)から推定すると、開院以来2年半で当院を受診した人は8,822人でした(2024年4月6日現在)。そのうち男性型脱毛症・女性型脱毛症は約500人。円形脱毛症の病名がある人は2,706人です。つまり、クリニックを受診している人の約3割が円形脱毛症の治療を目的として受診されていることになります。治療手段は、ステロイド(ケナコルト®)注射が1,009人、DPCP局所免疫療法が642人、JAK阻害薬の内服が120人(アトピー性皮膚炎だけを目的とした人を含みます:オルミエント®91人、リットフーロ®3人、リンヴォック®26人)です。

 一般の皮膚科クリニックでは、円形脱毛症に対してステロイド外用薬(アンテベート®、リンデロン®、デルモベート®など)とフロジン®外用液が処方されることが多いですが、正直なところあまり効きません。それは円形脱毛症におけるリンパ球の攻撃目標が毛球部という深いところに位置し、外用薬では届きにくいためと考えられます。紫外線療法(エキシマレーザー)も効果はありますが、あまり強くありません。紫外線なので回数が多いと発癌性の問題もあり、小児には実施しにくいところです。当院では、注射が嫌いな人と小児を除いて軽症の人はステロイド(ケナコルト®)注射をしていただいています。4~6週間間隔で頭皮の脱毛部に注射すれば、3か月後には例外なく注射部に発毛が認められます。しかし、注射量には限りがあるため、広い範囲には注射できません。適用としては100円玉のような脱毛斑がいくつかある人、さらに頭皮全体の10%程度までの脱毛斑には対応できます。汎発型の人で眉毛だけに、また蛇行型の人で前頭部の生え際だけに注射している人もいます。

 局所免疫療法は642人の人が実施しています。その有効性がどれくらいなのか統計を取っていませんが、70~80%程度と推定しています。通常は頭皮の10%以上に脱毛がある人に実施しています。特に小児や頭皮全体が疎毛になっている人には有効性が高いです。強い治療法ではないため、一旦改善しても季節によって反応が上下することがあります。また、ある場所だけがくっきり脱毛斑になっているタイプは注射の方が得意なので併用することもあります。さらに、中等度以上のアトピー性皮膚炎を合併している人は頭皮だけでなく、体もかゆくなることがあるので局所免疫療法は実施しにくいです。実施してみて、かゆくなりすぎた時には、ステロイドを中心にした炎症を抑える治療に切り替えることもあります。

 「急速進行型」円形脱毛症は、急に頭部全体の脱毛が始まり、1~2か月で大部分の頭髪がなくなる病型です。治療せず放置しても50~60%の人は1年以内に改善しますが、放置するには精神的に耐えられないので、ステロイドの内服か局所免疫療法をお勧めします。脱毛初期であれば反応の早いステロイド内服をお勧めしますが、頭髪の大部分が抜けてしまった後では副作用の少ない局所免疫療法をお勧めします。ステロイド内服は半年程度となりますが、種々の副作用で20%程度の人は脱落して局所免疫療法に移行します。またステロイド内服が終了しても、再発・再燃に備えてしばらくは局所免疫療法を継続していただきます。

 「急速進行型」や慢性「多発型」で局所免疫療法を半年~1年実施しても20%程度の人は反応が悪いです。50%以上の脱毛斑(全頭型、汎発型を含む)が残るようでしたら、治療費は高くなりますが、JAK阻害薬に切り替えることをお勧めします。3か月程度で発毛が見られ、6か月内服すれば概ね反応の程度を判定することができます。どのJAK阻害薬を内服するとよいかについては、効果がそこそこで、安全性の比較的高いオルミエント®4mg錠の内服をお勧めします。6か月の内服で脱毛面積20%以下を達成し十分な効果が得られた人は内服を継続する。逆にほとんど発毛効果が得られなかった人は中止する。中途半端な効果は得られたがウイッグが外せない人は、リトレシチニブ(リットフーロ®)50mg錠や、アトピー性皮膚炎の合併がある人はウパダシチニブ(リンヴォック®)15mg錠への変更が考えられます(院長ブログ11参照)。アトピー性皮膚炎の合併があり、高い効果を狙っている人は最初からウパダシチニブを内服することもできますが、副作用が重くなります(院長ブログ16参照)。リトレシチニブは円形脱毛症だけを適用にした新薬で、2024年8月末までは2週間処方しかできません。また、今年度の薬価改定で薬価がバリシチニブやウパダシチニブよりも3割高い点もマイナス点です(高額療養費制度を利用する人は3か月間処方に限り差なし)。
                        

                          2024/04/10 西新宿サテライトクリニック 坪井 良治                                 

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