アトピー性皮膚炎の治療薬、レブリキズマブ(イブグリース®)発売:デュピルマブ(デュピクセント®)の後継薬剤 | 新宿区西新宿の皮膚科・内科 | 西新宿サテライトクリニック
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アトピー性皮膚炎の治療薬、レブリキズマブ(イブグリース®)発売:デュピルマブ(デュピクセント®)の後継薬剤

2024年5月31日に、中等度以上のアトピー性皮膚炎を対象にレブリキズマブ(イブグリース®)が発売されました。すでに広く使用されているデュピルマブ(デュピクセント®)と類似の作用機序を持つ抗体医薬(注射薬)です。

デュピルマブと同等あるいはそれ以上の効果を持ちながら、月1回の注射でよく、副作用も少ないのが特徴です。デュピルマブでは顔面頚部紅斑に効果がいまひとつの印象したが、これにも効果が期待できそうです。長期処方ができるのは、おそらく2025年4月からですが、デュピルマブの代替となりうる優れた薬剤としてお勧めできます。デュピルマブの効果がいまひとつの人には朗報となりそうです。

2018年4月にデュピルマブ(デュピクセント®)が日本で発売されて6年になりますが、その優れた効果と安全性から重症アトピー性皮膚炎の治療が劇的に変わりました。デュピルマブの効果については、院長ブログ7 「 アトピー性皮膚炎の治療比較:デュピルマブ(デュピクセント®)/ JAK阻害薬(2022)」、院長ブログ 12 「デュピルマブ(デュピクセント®)によるアトピー性皮膚炎の治療実績」にすでに紹介しています。ここではレブリキズマブの国際臨床試験の結果を紹介しながら、デュピルマブの効果と副作用を比較してみましょう。 

レブリキズマブ単剤による第3相臨床試験は、2つの試験が同時に実施され、2023年に結果が発表されています1)。レブリキズマブ500mgを隔週で2回皮下注射したのち、3回目以降は250mgを隔週で皮下注射し、16週間後のEASI 75達成率は58.8%/52.1%でした。同時期のプラセボ群は16.2%/18.1%でした。EASI 75達成率とはアトピー性皮膚炎の皮疹の程度を評価するEASIの値が75%改善した人の割合です(院長ブログ7)。数値が高いほど効果が高いことを示します。これら2つの試験では、からだのどの部位でも均等に有効性を示しました(頭頚部紅斑に有効)2)。治療前のEASIスコアは28.8/29.7でかなり重症な人がエントリーされていました。ステロイド外用薬を併用した臨床試験では、同じ投与方法で16週間後のEASI 75達成率は69.5%、ステロイド外用薬のみの群は42.2%でした3)。外用薬を併用するとさらに効果が高まります。単剤による国際臨床試験には、16週間後に試験が追加されています。16週間後にEASI 75を達成して効果の高かった人を、2重盲検状態を維持したままで、レブリキズマブ250mg隔週投与群、レブリキズマブ250mg4週間1回投与群、プラセボ隔週投与群の3グループに再分配し、さらに36週間評価しました4)。その結果、16週間後にEASI 75を達成した人の割合を100%とすると、52週間後にEASI 75を維持できた人の割合は隔週投与群で78.4%、4週間1回投与群で81.7%、プラセボ隔週投与群で66.4%でした。つまり、2週に1回投与でも4週に1回投与でも効果が変わらないこと、9カ月間投与を中止しても効果があまり落ちないことを示しています。このことは、この薬剤の半減期が長いことと関係がありそうです。

比較のために過去のデュピルマブの試験結果を提示します。単剤で実施された2つの国際臨床試験の16週間後のEASI 75 達成率は51%/44%でした5)。治療前のEASIスコアは30.4/28.6で、かなり重症な人がエントリーされていました。ステロイド外用薬を併用した試験の16週間後のEASI 75 達成率は69%でした6)。レブリキズマブの国際試験結果と比較すると、単剤での比較では、レブリキズマブの方がやや優れている結果です。類似の作用機序であるネモリズマブ(ミチーガ®)の臨床試験は局所外用薬を併用した試験で、16週間後のEASI 75達成率が26%でした7)。トラロキヌマブ(アドトラーザ®)は単剤で2つの臨床試験が行われていますが、16週間後のEASI 75達成率は25%/33%でした8)(院長ブログ7)。いずれの注射薬も日本で使用できますが、試験結果が劣っているため、ここではこれ以上言及しません。

レブリキズマブ単剤による臨床試験で頻度の高い副作用4)は、アトピー性皮膚炎の悪化(8.9%)、結膜炎(8.2%)、鼻咽頭炎(8.2%)、アレルギー性結膜炎(6.0%)でした。好酸球数増多が1.5%、アナフィラキシー反応の報告はありませんでした。気になる副作用としては関節痛(1.4%)があげられます。いっぽう、単剤で実施されたデュピルマブの2つの臨床試験における副作用5)は、アトピー性皮膚炎の悪化(13/14 %)、注射部位疼痛(8/14%)、鼻咽頭炎(10/8%)、結膜炎(5/4%)、アレルギー性結膜炎(5/1%)でした。国際臨床試験の報告には記載がありませんが、デュピルマブにも関節痛の副作用がありますので、注意が必要です。レブリキズマブ投与によるアトピー性皮膚炎の悪化の副作用がデュピルマブよりも少ないのは、治療効果が強いためとも考えられます。

レブリキズマブ(イブグリース®)はIL-13に結合するモノクローナル抗体で、高い結合親和性を持ちます。その結果、1L-4受容体αサブユニットとIL-13受容体α1サブユニットの形成とその後のシグナル伝達を抑制します。デュピルマブ(デュピクセント®)はIL-4受容体αサブユニットに結合するモノクローナル抗体で、その後のIL-4およびIL-13のシグナル伝達を抑制します。作用点は違いますが、両者は効果発現機序がよく似ています。

半減期はデュピルマブが5.1日、レブリキズマブが21.3日で、レブリキズマブの方が血中滞留時間が長く、1回の注射で効果が長く続くことになります。レブリキズマブはデュピルマブとは異なる製薬会社から発売されていますが、後継薬剤ともいえるプロフィールを持つ抗体医薬です。IL-13結合親和性が強いために効果が強く、また半減期が長いために効果が持続するという優れた特性を持っています。

イブグリース®は新発売のため、約1年間は長期処方と自宅注射ができません。その期間は高額療養費制度も利用できません。2週間に1回、状況によりその後は月1回の受診が必要です。注射1本は、デュピクセント®とほぼ同額の61,520円、3割負担ですと18,456円になります。この約1年間は、デュピルマブの効果がいまひとつで、顔面頚部の紅斑やかゆみが軽快しない人が試みてみる治療と考えます。長期処方が解禁されれば、効果が同等以上で、月1回注射も可能なレブリキズマブに変更するのがよいでしょう。ただし、適用は12歳以上の中等度以上のアトピー性皮膚炎の患者さんです。

文献

1) N Engl J Med 388: 1080-91, 2023.

2)Dermatol Ther 2024. https://doi.org/10.1007/s13555-024-01158-4

3) JAMA Dermatol 159:182-91, 2023.

4) Br J Dermatol 188: 740-8, 2023. 

5) N Engl J Med 375: 2335-48, 2016.

6) Lancet 389:2287-303, 2017.

7) Br J Dermatol 186: 642-51,2022.

8) Br J Dermatol 184: 437-49,2021.

2024/06/03 西新宿サテライトクリニック 坪井 良治

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