より健康な生活を送るためにはときに薬や手術も必要となりますが、その前提として良い生活習慣が大切なのは論を俟ちません。食事や運動など生活上の注意を守って過ごすことを漢方医学では養生といいますが、漢方医学ではこの養生つまり生活指導をとても大切にします。実際のところ漢方外来を受診する患者さんには、食べ過ぎや運動不足、睡眠不足など生活の不節制が見られる方が少なくありません。
また養生というと、貝原益軒の『養生訓』を思い出される方もいらっしゃるかもしれません。『養生訓』は筑前黒田藩の儒学者で医師であった貝原益軒(1630 - 1714)が著しました。当時としては大変長生きだった益軒83才時の渾身の著作というところにまず大変な重みを感じます。そして全八巻(総論上下、飲食上下、五官、慎病、用薬、養老)のなかでみずから試み経験したことを綴った、実践的養生書となっています。益軒は身体の養生のみならず、「こころの養生」も説きました。メンタルヘルスの考え方は今でこそ当たり前ですが、300年以上前からメンタルヘルスの重要性を説いていた益軒の着眼点の先進性に驚きます。貝原益軒はさまざまな養生について述べており、ぜひご一読をお勧めします(講談社学術文庫から出ています)。
そこで『養生訓』の意訳を添え2回に分けて、漢方医学的な養生の一般的ポイントを簡単にまとめてみました。皆様の日常生活を見直すご参考にしていただければと思います。今回は食事について。
食事について(糖尿病などすでに食事指導を受け治療中の方はそちらを優先してください)
月並みですがやはり腹8分目を心掛けること、特に夜はたくさん食べないようにして下さい。あとは寝るだけですから・・。体重がなかなか減らない方は、夜を中心に主食を減らすあるいはやめる習慣(糖質ダイエット)が有効でお勧めです。体重計に毎日乗って体重の「見える化」を図るのも体重管理に効果的ですので、エクセルやスマホのアプリを活用してやってみて下さい。
漢方医学的には、体重が増えると水毒(体内の水分バランス悪化によりむくみやアレルギー症状が出やすくなります)や瘀血(おけつ、血行不良による冷えや痛みが悪化)が悪化すると考えられています。
『養生訓』には「飲食は飢渇をやめんためなれば、飢渇だにやみなば其上にむさぼらず、ほしいままにすべからず。飲食の欲を恣にする人は義理をわする。是を口腹の人と云いやしむべし」(飲食をするのは飢えや渇きを抑えるためなので、飢えや渇きがなくなったらさらに暴飲暴食をしてはいけない。食欲のおもむくままに飲食する人というのは、人間として重要な義理も忘れてしまう。これを口腹の人、つまり口とお腹だけでできていて理性のない人と言っていやしむべきである)と記されています。