漢方薬は生薬から作られます。そこで今回は生薬についてお話しましょう。生薬とは天然に産する植物、動物、鉱物を刻んで細かくしたり乾燥したりといった簡単な処理を行い薬用に使用できるようにしたものです。長期保存の観点から乾燥させることは特に重要ですが、出来るだけ天然に近い状態で用いることがポイントとなります。この生薬の組み合わせでひとつの漢方処方ができます。例えば有名な葛根湯は葛根・麻黄・桂皮・芍薬・甘草・大棗・生姜という7種類の生薬から構成されています。組み合わせの妙で多彩な症状に一処方で対処でき、副作用を抑えながら最大限の効果を発揮するよう工夫されているのです。
生薬は植物由来のものが大部分を占めますが、その中には生薬にも野菜にもなる植物が多数存在します。代表的なもののひとつは生姜です。八百屋で売っているものは当然ですがショウガです。しかし生薬となるとショウキョウという別の呼称になります。ちなみに英語でも生薬名はZingiberis Rhizomaと表記します、ショウガはGingerですよね。実は食薬区分という当時の厚生省が発出した省令があり、そこでは専ら医薬品として使用される原材料と、医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない原材料を分けました。後者は食品として利用できますが、医薬品的効能効果を謳うと薬事法違反になります。分かりやすく言えば、ショウガを胃薬や吐き気止めなどと効果を謳って販売・提供すると法律に触れるというわけです。また生薬として利用するためには、薬事法に定めた一定の品質を満たす必要もあります。
そうはいっても、食事と伝統医学の関わりを示す言葉が多数みられるのも事実です。皆さんにもなじみ深い「医食同源」は実は1972年日本で造語された言葉で、中国の「薬食同源」 を基にした言葉とされNHKの「今日の料理」ではじめて紹介されました。「薬膳」という言葉も1980年代ころから日本で広まり定着したと言われています。
突然ですがここである日の朝食の写真を出します。このメニューの中に漢方薬としても使われる食品が何種類含まれているかおわかりでしょうか。答えは9種類、ご飯(生薬名 粳米<こうべい>)、ごま(胡麻)、ねぎ(葱白<そうはく>)とわかめの味噌汁、納豆(香豉<こうし>)、こんぶ(昆布)の佃煮、卵焼き(卵黄)、しょうが(生姜)の甘酢、みかん(陳皮など)、お茶(茶葉)が漢方薬を構成する生薬として用いられてきました。漢方と食事はかかわりが深いのですね。ちなみに、中国の古典『周礼<しゅらい>』に定める医師四種は獣医、疾医(内科医)、瘍医(外科医)、食医(食事療法医)の4ランクあり、食医がトップランクとされていました。まさに「薬食同源」です。