前回は生薬についてお話しましたが、漢方薬は生薬を組み合わせて作られます。そこで今回は改めて漢方薬について考えてみます。
漢方薬は一般的に、漢方医学の考え方、漢方医学における薬効薬能をもとに、生薬を配合した医薬品とされます。原則として2種類以上の生薬を組み合わせることでひとつの処方ができるのが、いわゆる民間薬との違いです。組み合わせることでその効果を最大限・副作用を最小限にしたり、多彩な症状にひとつの漢方処方で対処可能とする、先人の知恵や工夫が詰まっているのです。例えば前回も触れましたが、有名な葛根湯は、桂枝、芍薬、甘草、大棗、生姜、麻黄、葛根の7種類の生薬から構成されています。この生薬のそれぞれの作用を足し合わせると、かぜの引き始めで熱はあるが汗が出ない、頭痛や肩こりといった症状のある患者に用いると素早く効果を発揮します。つまり一つ一つの漢方薬には、向いている症状や合っている体質といった個性があり、これが漢方医学で「証」と言い表されるものになります。漢方医学の診断である「証」に合わせて、葛根湯以外にも様々な生薬の組み合わせで数多くの漢方薬が作られ臨床応用されています。
そしてよく効く漢方薬には名前が付けられるようになりました。漢方薬の名前は独特ですが、最後の一文字は元々の剤形を示すことが多いです。葛根湯や麻黄湯などの「湯」は漢方薬の元来の主な剤形である煎じ薬を示し、「蕩」に通じ大病を掃蕩する意味があります。五苓散や当帰芍薬散などの「散」は、元来生薬を粉末にして分量に従い混和したものを指します。「散」ずるに通じ急病を解散させる意味合いで用いました。八味地黄丸や桂枝茯苓丸などの「丸」は、粉末にした生薬を混和し蜂蜜を絡めて丸く形成したものを指します。「緩」に通じ緩徐に病気を治す、徐放性剤のニュアンスがあります。このほか、煎じ薬をスプレードライやフリーズドライの技術を用いて乾燥・粉末化したものに賦形剤を加えて造粒した、現在では主流のエキス製剤や、少数ですが紫雲膏などの外用剤もあります。
漢方薬のニーズは増加しており、漢方薬使用の医薬品全体に占める割合は増加傾向にあります。2002年の医薬品全体の売上総額は6兆4892億円、このうち漢方製剤等は1105億円でした。しかし2012年に医薬品全体で6兆9767億円と10年で1.07倍の伸びであったのに対して、漢方製剤等は1519億円と10年で1.37倍の大きな伸びを示しました。直近の2020年では、医薬品全体で9兆3054億円(2002年比1.43倍)に対し漢方製剤等は2136億円(同1.93倍)とさらに伸びています。医薬品全体に占める比率自体は2020年でも2.3%とわずかですが、今後さらなる使用の増加が見込まれます。