デュークラバシチニブ(ソーティクツ®)はJAK阻害薬のひとつで、TYK2とよばれる免疫に関与する分子を抑制する内服薬です。2022年11月に発売された薬剤で、当院でも処方を開始しました。速効性はありませんが、中等症の尋常性乾癬に対する効果が高く、副作用も少ないので、お勧めできる薬剤です。類似の薬剤にアプレミラスト(オテズラ®)がありますが、以下に述べるようにデュークラバシチニブの方が有効性が高いので、将来的には代替されていくものと思われます。薬剤費は3割負担で、ソーティクツ®錠による治療が月21,250円、オテズラ®錠が16,632円で、ソーティクツ®錠の方が少し高額です。それではデュークラバシチニブの特徴について、国際臨床試験の結果をもとに比較検討し、患者様に情報提供したいと思います。
乾癬は日本人の0.5%が罹患する慢性の皮膚疾患です。角化性紅斑と呼ばれる鱗屑を伴う厚い紅斑が徐々に全身に広がります。痒みはある場合と、ない場合があります。病気の重症度は、基本的に皮疹の程度と広がり(面積)により評価されます。臨床試験ではPASI (psoriasis area severity index)という指標が良く使われます。この指標は皮疹の紅斑、厚さ、鱗屑の程度に皮疹の面積を掛け合わせて算出します(0点=皮疹なし~ 72点= 皮疹最重症)。PASI 75とはPASIが75%改善した割合を示します。罹患面積が広い重症な人の評価法として適していますが、素人には算出しにくい指標です。もう一つの指標にBSA (body surface area)体表面積があります。皮疹の面積から評価する方法です。指を閉じた状態の片方の手のひらの面積が体表面積の1%に相当するので、これが何枚とれるかで重症度を推定する方法です。10%以上が中等症・重症で、内服薬で治療することができます。その他に重症度に影響を与える因子として、爪病変や関節炎の有無、皮疹の膿疱化、紅皮症化が挙げられます。
JAK(ヤヌスキナーゼ)は細胞内の炎症にかかわるシグナル伝達を制御する酵素で、JAK1、JAK2、JAK3、TYK2の4種類があります。いずれの酵素の阻害薬も炎症や免疫を抑制する方向に働きますが、細かい部分は異なりますので適応疾患も異なります。デュークラバシチニブはTYK2阻害薬のひとつで、乾癬の病態形成に重要なIL-23、IL-17などのサイトカインの働きを抑制することで効果を発揮します。アトピー性皮膚炎や円形脱毛症に適応のある他のJAK阻害薬に比較すると副作用が少ないのが特徴です。いっぽう、これまで使用されてきたアプレミラストはホスホジエステラーゼ4(PDE4)阻害薬で、細胞内のcAMPの濃度を上昇させることで、炎症に関わる情報伝達を調整する薬剤です。JAK阻害薬に比較すると感染症誘発のリスクは少ないですが、悪心、嘔吐、下痢の副作用が多く、少量から飲み始めないといけないのが欠点です。
同時に行われた2つの国際臨床試験の結果1)2)からデュークラバシチニブとアプレミラストの特徴を比較してみましょう。参加したのは18歳以上で、PASI 12以上でBSA10%以上の中等度・重症の乾癬患者です。デュークラバシチニブ6mg錠1日1回内服群(n=332/511)、アプレミラスト30mg錠1日2回内服群(n=168/254)とプラセボ群(n=166/255)の効果を16週間後に比較しています。それぞれの群間に大きな患者背景の差はなく、平均PASIが20を少し超える程度の重症度でした。16週間内服後のPASI 75達成率はデュークラバシチニブ58.4%/53.0%、アプレミラスト35.1%/39.8%、プラセボ12.7%/9.4%でした。プラセボ群だけでなく、デュークラバシチニブ群とアプレミラスト群の間にも統計学的な有意差が認められました。ちなみに、日本人集団(n=32, n=17, n=17)は1)に含まれますが、それを別にまとめた報告3)ではPASI 75達成率はそれぞれ、78.1%、 23.5% 、11.8%で、デュークラバシチニブの効果がより強く出ていました。これは、患者数が少ないための統計学的ばらつき、あるいは日本人平均体重(約70kg)が海外よりも約20kg軽いためと思われます。
2つの臨床試験で52週間に認められた主な副作用1)2)4)は、デュークラバシチニブ群は鼻咽頭炎16.8%、上気道感染9.1%、頭痛5.9%、下痢5.1%、関節痛4.0%、CK値上昇3.3%、咽頭炎3.0%、ざ瘡2.1%、口腔ヘルペス2.1%、アプレミラスト群は下痢12.8%、鼻咽頭炎12.8%、頭痛12.6%、吐き気11.1%、上気道感染6.4%、関節痛4.0%、プラセボ群は鼻咽頭炎8.1%、上気道感染5.0%、頭痛3.2%、下痢4.2%、関節痛3.2%でした。 薬剤投与に関与するものとして、デュークラバシチニブ群では鼻咽頭炎、上気道感染が、アプレミラスト群では下痢、吐き気などの消化器症状が挙げられました4)。国内の市販直後調査5)では、推定830人に投与されて、副作用は52例74件で、ざ瘡6件、乾癬6件、口腔ヘルペス4件、口内炎4件、発熱4件でした。重篤な感染症は蜂巣炎、肺炎、ブドウ球菌感染症がそれぞれ1例でしたが、いずれも基礎疾患がある人でした。デュークラバシチニブはTYK2阻害薬なので、感染症の頻度は少し上がりますが、JAK1,2阻害薬に比較すると軽症で、また理論的に心臓血管系の副作用(血栓を含む)が起こりにくいとされています4)。
以上の結果から、デュークラバシチニブ(ソーティクツ®)錠は、速効性はないものの、中等度の尋常性乾癬に有効で、副作用は比較的少なく軽症で、アプレミラスト(オテズラ®)よりも有効で使いやすい薬剤と言えます。罹患面積が非常に広範囲の人や、関節炎、皮疹の膿疱化、紅皮症化がある人は、効果が高く、速効性のある生物製剤の注射が第1選択薬です。現在、国内では10種類以上のTNFα抗体やIL-17関連抗体、IL12/23関連抗体が発売されていますので、大学病院などの大規模医療施設で治療を受けてください。逆に体表面積(BSA)が10%未満の人は外用薬主体の治療を継続するのがよいと思います。体表面積は10%以上だが、それほど広範囲ではなく、関節炎がない人が内服薬の対象になります。上記2剤以外の内服薬にはメトトレキサート(リウマトレックス®)やJAK阻害薬のウパダシチニブ(リンヴォック®)がありますが、いずれも関節症性乾癬に使用されます。したがって、現時点で中等症の人はソーティクツ®錠かオテズラ®錠のいずれかの内服になります。副作用がなく効果も得られている人は、価格も安いオテズラ®錠を続けるのがよいと思います。しかし、効果に満足していない人は、ソーティクツ®錠に切り替えてみるのがよいと思います。ただし、事前に感染症関連の血液検査と胸部X線撮影が必要です。重症患者には生物製剤の注射が第1選択ですが、将来的には重症患者にも有効な内服薬が開発される可能性が高いです。いずれかの薬剤の内服治療を続けながら、さらに有効で安全な内服薬が発売されるのを待つのがよいと思います。なお、オテズラ®錠の処方は、どの皮膚科クリニックでもしてもらえますが、ソーティクツ®錠はJAK阻害薬に分類されるため、日本皮膚科学会から認定を受けたクリニックでしか処方してもらえません。受診する前に日本皮膚科学会やクリニックのホームページを確認してから受診してください。
文献
1)J Am Acad Dermatol 88: 29-39, 2023.
2)J Am Acad Dermatol 88: 40-51, 2023.
3)J Dermatol 50: 588-595, 2023
4)J Eur Acad Dermatol Venereol 38: 1543-1554, 2024.
5)市販直後調査最終結果報告:ブリストル・マイヤーズ 2023.08
2025/01/20西新宿サテライトクリニック 坪井 良治
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