3月までは漢方医学の基本的な考え方や漢方薬・生薬などについてお話してきました。4月からは、漢方外来でよく用いる漢方薬について紹介してみたいと思います。
漢方薬の代名詞ともいえるのは何といっても葛根湯でしょう。ということでまずは葛根湯から。葛根湯はいつ頃作られたと思いますか?実は西暦200年頃、後漢時代の治療書である『傷寒論』の中にすでに登場しています。言い換えると1800年も前に調合方法のレシピができており、今もほぼその通りの生薬の用量、組み合わせで使われているのです。化学合成された現代医薬の歴史は、一番古いアスピリンでもせいぜい120年くらいしかありません。しかも歴史が古いだけでなく、風邪のときに葛根湯を飲んで効果を実感した方も少なくないと思います。1800年前にできた葛根湯は今でもちゃんと効くのです、1800年も使われてきたってすごいことだと思いませんか。
葛根湯は以前お話ししたように7種類の生薬からなりますが、その名前は中に含まれている葛根が主な生薬であることからの命名です。葛根の起源植物はクズと呼ばれ、山の方に行くと道端に生えている雑草でその根を薬用とします。皆さんには食べ物としての葛湯や葛切りなどの方が親しみがあるかもしれません。葛根は首や肩の筋肉の緊張をほぐし頭痛や肩こりに効果があるほか、消炎作用や止痢作用などもあります。そこで風邪の引き初めに頭痛などがあるとき広く用いられますが、肩こりにも有効ですし副鼻腔炎や乳腺炎などほかの炎症性疾患にも応用されています。
葛根湯といえば落語のネタにもなっていますね。古典落語の葛根湯医者の話は、頭痛の患者にも腹痛の患者にも誰にでも葛根湯を処方し、はては患者の付き添いの人にも葛根湯を出してしまうといった内容でした。そこで葛根湯医者は藪医者の代名詞のようになっていますが、葛根湯の応用範囲の広さと切れ味のよさを考えると、実は意外と患者さんをよく見て葛根湯を出していたのではないかもと思えてしまいます。付き添いの人に出すのは余計ですが・・。