自らの病気に対し、患者さん自身の捉え方にも様々な違いが存在することは当然です。ただし、その認識が科学的に間違った事柄や、根拠のない伝聞に基づくものであるのならば、適切な治療に結びつく可能性は低くなり、結果として患者さんの利益損失を招くこととなります。これはいかなる疾病においても絶対に避けねばなりません。
糖尿病治療においても多くの誤解や偏見が存在するのですが、最もポピュラーな誤解ともいえるのが、”注射療法”に対する認識ではないでしょうか。『注射ですか・・・そんなに病気の状態は悪いのですか?』『注射を始めたら最後と友人に云われました(涙)』『注射は寿命を縮めるのでは?』などなど、これらの切実なお言葉を伺うにつけ、いかに患者さん方が”注射”という治療手段を特別視されているのかがうかがわれますが、糖尿病治療で『注射で投与すべき薬剤』とは、何のことはない、『口から投与(内服)すると胃酸で壊れてしまい、効果を発揮できない”タンパク質”の薬』という単純な事実のみが解答であり、“重症”や“最後”などという悲愴な言葉とは全くの無縁であることは知って頂きたいと思います。むろん、注射には針が必要で、針がお好きという方は皆無であることも事実ではありますが、昨今の針はその細さゆえ刺入時の痛みはゼロに近く、中には最初から最後まで針自体を見ることなく注射を終えることのできる薬剤もあることは知っておいて損はないと思います。
西新宿サテライトクリニック内科
三輪 隆(日本糖尿病学会 研修指導医/専門医)