プロペシア®1mg錠(フィナステリド)は発売されて20年近く経過し、後発医薬品が広く使われる時代になりました。改めて、フィナステリドの性欲減退、勃起不全などの性機能関連の副作用について考えてみたいと思います。海外では、post-finasteride syndromeという言葉が使われて、不安をあおっている面もあります。また、男性型脱毛症でないのに不安にかられて予防内服している人も多く見かけますので、適正使用についても述べてみたいと思います。
フィナステリドとデュタステリドは5α還元酵素阻害作用の内服薬で、もともと前立腺肥大症の治療薬として開発されました。作用点が前立腺と性ホルモン感受性毛包であるため、男性型脱毛症の治療薬として転用されました。作用点が限局的なこともあり、副作用が少なく、非常に安全な薬剤のひとつと言えます。しかし、薬剤の特性から、性機能関連の副作用が数%出現し、内服するにあたり、不安を抱く人も多いと思います。
フィナステリド(プロペシア®1mg錠)の国際臨床試験で、発生頻度の多かった性機能関連の副作用は性欲減退(リビドー低下)(1.9%) 勃起不全(インポテンス)(1.4%)、精液量減少(1.0%)でした(ブログ24)。頻度不明も含めて、フィナステリドとデュタステリドについて報告のあった副作用を列挙すると以下のようになります。射精障害、睾丸痛、血精液症、男性不妊症、乳房痛、乳房肥大(女性化乳房)、抑うつ気分、めまい、倦怠感。複数の2重盲検比較試験のメタ解析1)では、これらの薬剤は、プラセボ群よりも性機能関連の副作用の頻度が高かったが、2薬剤間に差はありませんでした。5年間の内服継続試験では、これらの副作用は内服初期に現れており、中途で出現することは稀です。プラセボ群でも一定数の副作用の報告がありました(ブログ24)。FDAは最近、5α還元酵素阻害薬と自殺念慮の可能性について警告を出しましたが、前立腺肥大症患者では抑うつ気分や自殺念慮と関係がなく、男性型脱毛症の患者では、不安や抑うつ気分がわずかに高いことが報告されました2)3)。したがって、薬剤によるものではなく、疾患特異性によるものと推察されます。
post-finasteride syndromeは、男性型脱毛症の治療目的でフィナステリドを内服した人に性欲減退や勃起不全などの性機能関連や、不安、抑うつ気分などが生じ、内服を中止してもそれらの症状が続く人のことを指します4)。正式な病名ではありません。すでに述べたように、薬剤ではなく、疾患特異的に不安、抑うつ気分などを生じている可能性があります3)。また事前に、性機能関連の副作用があることを告知された治療群は、告知されていない治療群に比較して有意に発生率が高くなったという報告があります(ノセボ効果)5)。ノセボ効果とは副作用を心配するあまり、偽薬(プラセボ)を内服しても副作用症状が現れることを指します(プラセボ効果の逆)。私のグループの報告では、フィナステリドを内服して男性型脱毛症が改善すると、満足度は上がりましたが、不安の程度は改善しませんでした6)。
以上の報告から、フィナステリドの内服を開始する時の注意点について考えてみたいと思います。最初の内服は1か月間とします。性機能関連の副作用が出現するのは、内服初期で、内服した人の数%です。この期間に性機能関連副作用を生じ、日常生活に支障を来すようであれば、その時点で中止すれば症状はなくなります。また、内服する前から性機能関連副作用が怖いと思って、非常に気になっている人は最初から内服しないことです。治療薬にはミノキシジル外用もあります。また、自己責任での自己購入とはなりますが、フィナステリド外用薬を購入して、2つの外用薬を併用することも考えられます(ブログ26)。 男性型脱毛症の治療に当たって、もう一つ注意したいのは治療の適用範囲です。男性型脱毛症の治療を開始したいと思う人は、その重症度ではなく、気にする程度によります。つまり、フィナステリドとデュタステリドは、うす毛のひどい重症の人が内服しているのではなく、症状は軽症だが気にしている人が内服しているということです。AGA専門のクリニックでは、予防と称して男性型脱毛症がない人にも処方していますが、当院ではこれらの人には内服による治療を勧めていません。Norwood-Hamilton (NH)分類に基づいて的確に男性型脱毛症を診断し、治療が必要と判断した人だけに薬剤を処方しています。時に、頭髪に全く異常がないのに、うす毛の不安を強く訴える人に遭遇します。10歳代後半から20歳代にかけての男性という特徴があります。このような人には強迫性障害があり、メンタル的な治療が必要です。すでに述べたように、男性型脱毛症の治療を希望する人の中には不安症の人が一部含まれます。このような人では、治療により満足度は上がりますが、不安は解消されません6)。いずれの薬剤も内服3-4か月で効果が出始め、1年後にピークを迎え、その後は効果の維持になります。効果が出たからと言って治療を止めると、4-6か月で元の状態に戻ります。治療効果が出れば継続することが必要です。また、治療効果の判定には定期的な写真判撮影が必須です。
文献
1)Acta Derm Venereol 99: 12-17, 2019.
2)Eur Urol Focus 10: 751-753, 2024.
3)Australas J Dermatol 65: 621-629, 2024.
4)Neurobiol Stress 12:100209, 2019.
5)J Sex Med 6: 1708-1712, 2007.
6)J Dermatol 38: 773-777, 2011.
2025/6/23 西新宿サテライトクリニック 坪井 良治
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