男性型脱毛症(AGA, MPHL)の治療に使われる主要な有効成分には、フィナステリド、デュタステリド、ミノキシジルがあります。それぞれの成分の分子量が小さいために、世界的にはそれぞれの物質に対して外用薬と内服薬が存在します。しかし、日本で認可されている(適用のある)薬剤は、5α還元酵素阻害作用の内服薬2種類(フィナステリド0.2mg, 1.0mg、デュタステリド0.1mg 0.5mg)と外用薬1種類(ミノキシジル)だけです。米国(FDA認可)では、フィナステリド1mg内服とミノキシジル外用、低出力レーザー育毛器が認められています。プロペシア®(フィナステリド)、ザガーロ®(デュタステリド)ともに後発医薬品が発売されていて、2025年現在で新規の薬剤は日本で発売されていません。これらの成分の派生品(外用薬、内服薬への転用)の生産は、日本以外のアジアを中心に行われています。このブログでは、当院における男性型脱毛症治療の臨床実績をお示しすると同時に、植毛術や再生医療を含め国内外の現状と動向についてご報告したいと思います(ブログ24,25も参考にしてください)。
当院は開院から3年半を経過しましたが、この期間の皮膚科受診患者数は診療録ベースで12,449人でした。そのうちフィナステリド1mg(日本製)を内服したことがある人は294人、デュタステリド(日本製)を内服したことがある人は72名でした。院内で5%ミノキシジル(ミノグロウ®:日本製)を購入した人は1,119人、院外でリアップ®を購入した人は2,000人程度と推定されます。ミノキシジル外用薬は女性型脱毛症や円形脱毛症の回復期の人も使用しています。当院では、Norwood-Hamilton (NH)分類に基づいて的確に男性型脱毛症を診断し、治療が必要と判断した人だけに薬剤を処方し、3-6か月ごとに写真を撮る外観評価で効果を判定しています。男性型脱毛症の治療を始める人には、フィナステリドの内服か、ミノキシジルの外用をお勧めしています。いずれの薬剤も使用3-4か月で効果が出始め、6か月で効果を実感できるようになり、1年後にピークを迎えます。その後は効果の維持になります。効果が出たからと言って治療を止めてしまうと4-6か月で元の状態に戻ってしまいますので、治療効果が出れば継続することが必要です。治療効果の判定には定期的な写真判撮影が必須です。毎日、鏡を見ているだけでは、過去の状態との比較ができないので、効果を実感できず、治療を止めてしまう人が多くなります。
よく受ける質問は、フィナステリド、デュタステリド、ミノキシジルのどれを使うのがよいかというものです。脱毛の一時的な増加や、わずかなボリューム低下であれば、ミノキシジル5%を自己購入して3-4か月試してみるのが良いと思います。本格的に治療を開始したいのであればフィナステリド1mgの内服をお勧めします。ミノキシジル5%を併用するとさらに効果が上がります。フィナステリド1mgを6か月間内服したけれども、効果に満足できない人は、フィナステリドをデュタステリド0.5mgに変更することで効果をやや上げることができます。ただし、精液量の減少率が高くなるので、挙児希望中の若い人にはお勧めしません(ブログ24)。上記のどの薬剤がどの程度効くのかを比較した報告はほとんどありません。主な理由は、販売している会社が異なるので、複数の薬剤を直接比較した臨床試験を組みにくいためです。ブログ24に書いたようにフィナステリド1mgとデュタステリド0.5mgには直接比較した臨床試験が一つあり1)、当院での実績も含め、デュタステリド0.5mgの方がやや有効性が高いと考えます(ブログ24)。フィナステリド1mg単独よりも、ミノキシジル2%を併用した方が効果が高いという小規模試験の報告があります2)。私の経験をもとに、それぞれの効果を単純化して印象を述べると、頭頂部がはっきり薄くなっている中等症以上の男性型脱毛症では、フィナステリド1mgの効果を1とすると、デュタステリド0.5mgは1.2、ミノキシジル5%は0.7くらい、フィナステリド1mgとミノキシジル5%の併用では1.2、デュタステリド0.5mgとミノキシジル5%の併用では1.3くらいか。軽度の薄毛やボリューム低下の軽症男性型脱毛症では、フィナステリド1mg、デュタステリド0.5mg、ミノキシジル5%の治療効果に大きな差を感じません。5α還元酵素阻害薬は薄毛パターンがはっきりしている人に有効であり、ミノキシジルは頭部全体が軽度うす毛、あるいはボリュームが低下している人に有効性が高い印象です。
アジアではフィナステリドの外用薬、ゲルやスプレーが開発され、小規模な臨床試験が実施されて、その有効性が報告されています3)-6)。フィナステリドの内服と外用が同等効果とするもの4)5)、フィナステリド外用とミノキシジル5%の外用に効果差はないとする報告6)があります。フィナステリドを外用しても、血中DHTは内服ほどではないものの低下するので、性機能関連の副作用も少数報告されています5)。主観的な症状なので、外用という気安さから性機能関連の副作用は出にくいかもしれません。ミノキシジルの内服については、すでに欧米で小規模な臨床試験がいくつか実施されていて、2.5mg/日の少量内服が有効であることが報告されています(院長ブログ6)。
これらの中で、どの組み合わせで治療するのが良いかを検討してみたいと思います。結論から言えば、日本で認可されている5α還元酵素阻害薬の内服(フィナステリド1mgあるいはデュタステリド0.5mg)とミノキシジル5%外用の併用が一番良いと考えます。フィナステリドの作用点は主として前立腺と性ホルモン感受性毛包(前頭部、頭頂部)にしかありません。作用点が少ないので内服しても安心です。しかし、外用しても後頭部毛包には効きません。いっぽう、ミノキシジルは外用したところ全てに、内服すれば全身の毛包に作用します(多毛が副作用となる)。したがってミノキシジルは、毛量の欲しい場所だけに外用するのが最も効率がよいのです。多毛が出るほど内服すれば浮腫、低血圧、動悸などの副作用も出やすくなるので、世界的にはミノキシジル2.5mg/日の少量内服が推奨されています(院長ブログ6)。したがって、外用するという面倒くささはありますが、かゆみを生じなければミノキシジルは外用がお勧めです。アトピー性皮膚炎や頭部湿疹で頭皮が荒れている人や、液剤に含まれるアルコールに弱い人は内服するしかないと思います。フィナステリド、デュタステリドの外用薬やミノキシジル内服薬は自己責任での購入になります。保証(補償)はありません。このことはクリニックで処方されても同じです。また、インド製のフィンペシア®も医薬品副作用被害救済制度の対象外ですのでご注意ください。当院では、品質のしっかりした日本製の後発医薬品の使用をお勧めしています。
最後に、これらの成分以外の男性型脱毛症の対処法について述べてみたいと思います。FDAで認可されている低出力レーザー育毛器は、日本では認可されていないので、雑貨として輸入されています。血行を良くして毛母細胞を活性化するという、機序的にはミノキシジルに似た作用を持ちます。ある程度の効果は得られます。いろいろな形の機器が販売されていますので、自分の生活に合った使いやすい形のものを選べばよいと思います。植毛術は、後頭部の毛包を薄毛の部分に移す手術で、有効な治療法ですが、毛包を移動させるだけで毛髪総数は変化しません。前頭部が後退して薄くなっている人に特に有効です。最近では、毛包を一つずつ採取して、後頭部の傷跡を目立ちにくくする方法が、価格は高くなりますが人気です。植毛術は、フィナステリド、デュタステリド、ミノキシジルの外用・内服を1年間程度試して、前頭部の後退の改善が十分でない時に試みてみる方法と考えます。そのほかの治療法として再生医療があります。その一つは、自分由来の脂肪組織幹細胞の培養上清液や多血小板血漿(PRP)を頭皮に注射する方法です。液性成分にいろいろな細胞成長因子が含まれていますが、特定の細胞成長因子を注射することもあります。液性成分ですので、1回の注射でどのくらい効果が持続するのかが課題です。もう一つは、私も関与していますが、資生堂が実施している毛球部毛根鞘細胞(S-DSC)と呼ばれる細胞を頭皮に注射する方法です。自分の毛包組織を採取して、細胞加工培養施設で細胞を増やし、うす毛の部分に注射して発毛を促進させるものです7)。細胞を打ち込むので、その効果は1年以上期待できます8)。いずれの再生医療もかなり高額なので、経済的に余裕のある人が+αとして試みてみる治療法と考えます。
文献
1)J Am Acad Dermatol 70: 489-498, 2014.
2)J Dermatol 29:489-498, 2002.
3)Chin Med J (Engl). 2025 Mar 17. doi: 10.1097/CM9.0000000000003495.
4)Indian J Dermatol Venereol Leprol 75: 47-51, 2009.
5)J Cosmet Dermatol 21: 1841-1848, 2022.
6)Arch Dermatol Res 317:691, 2025.
7)J Am Acad Dermatol 83: 109-116, 2020.
8)J Dermatol 50: 1539-1549, 2023.
2025/6/23 西新宿サテライトクリニック 坪井 良治
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