水虫は正式には白癬(はくせん)と呼びますが、白癬菌(皮膚糸状菌)というカビによる感染症です。最近の医学会では、水虫治療薬が効きにくい薬剤耐性菌が出現していることが話題になっています。従来は水虫菌に耐性菌はいないと信じられていましたが、最近の日本国内では2-3%程度が耐性菌となっていると考えられています1)。ただし、大部分の水虫では、薬局で売っている、あるいは病院で処方される水虫薬が効きますので、大きな問題はありません。むしろ、水虫でない足の病気、特に湿疹に水虫薬を塗って効かないと思っている人がなんと多いことか。水虫の治療で最も大切なことは、治療する前に、本当に水虫かどうか、皮膚科クリニックで正確に診断してもらうことです(院長ブログ29)。ここでは、わが国の水虫の耐性菌事情について情報を提供します。
水虫から分離される白癬菌にはTrichophyton ruburum、Trichophyton interdigitaleという2大菌種が知られています。顕微鏡で見えますが、細菌よりは大きな微生物です。水虫の治療には、テルビナフィンという成分が1993年から外用薬として広く使用され、その後は爪水虫の内服治療薬としても全世界で使用されてきました。また、イトラコナゾールは爪水虫や内臓真菌症に対して2006年より広く使用されています。いずれの薬剤もピンポイントで菌の増殖を抑制して死滅させるため、細菌に対する抗生物質と同様に、長い期間、広範囲に使用されると、遺伝子学的に耐性機序を獲得して効かなくなります。それに対抗してさらに新しい機序の薬剤が開発されるという、いたちごっこになります。最近、インドの体部白癬患者からTrichophyton indotineaeというTrichophyton interdigitaleから派生した新種の菌が報告され、テルビナフィン耐性になりやすいことが知られています2)。インドではステロイドを含む抗真菌外用薬が薬局で手軽に購入でき、広く使用されていることで、耐性菌を生じたのではないかと考えられています。また、タイでは水虫から分離される菌の半数が白癬菌ではなく、従来の水虫薬が効きにくい菌種になっています。したがって、これら薬が効きにくい水虫が海外から輸入されて今後日本で増える可能性があります。
日本で現在よく使われている水虫薬の成分には、ルリコナゾール、ラノコナゾール、テルビナフィン、ブテナフィン、リラナフタートなどがあります。クリニックで処方してもらわないと手に入らない成分・製品もありますが、基本的には薬局で購入できる水虫薬と効果に大きな差はありません。ただし、爪水虫に対する外用治療薬はクリニックでの処方が必要です。これらの成分の中で、耐性菌を含め水虫菌に対する効果が最も高い(最小阻止濃度(MIC)が低い)と推測されるのはルリコナゾールとラノコナゾールです3)4)。ただし、これら2つの成分はほぼ同一であり、ほかの成分と比較して、ややかぶれ(接触皮膚炎)が多いので、注意が必要です。数週間以上外用して、逆に赤みやかゆみが強くなった場合、あるいは効きが悪いと感じた場合には他の成分を含む水虫薬に変更してください。 ただし、水虫でないものに水虫薬を塗っても効果はありませんので、治療を始める前に正確な診断が必要です(院長ブログ29)。
文献
1)Med Mycol J 66: 11-15, 2025.
2)真菌誌 65: 7-10, 2024.
3)Med Mycol 47: 640-647, 2009.
4)Med Mycol J 64: 23-25. 2023.
2025/10/06西新宿サテライトクリニック 坪井 良治
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