院長ブログ31  爪水虫の治療を考える:内服か外用か | 新宿区西新宿の皮膚科・内科 | 西新宿サテライトクリニック
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院長ブログ31  爪水虫の治療を考える:内服か外用か

 爪水虫(白癬)は足水虫と同様に白癬菌というカビによって起こる感染症で、通常は足水虫が拡大して生じます。ただし、足水虫とは違って診断と治療が難しく、同じと思っては失敗します。最も大切なことは、検査により爪水虫であることを正確に診断してもらうことです。また、爪水虫の治療には内服薬と外用薬がありますが、いずれの治療でも時間がかかり、完全に治すには根気よく治療を続けることが大切です。それでは、爪水虫治療に関する最近の状況を報告します。

 爪水虫の頻度は人口の10.0%程度とされています1)。足の爪水虫が多いですが、時に手の爪水虫もあります。爪だけが水虫菌に侵されることは稀で、ほとんどは足水虫が広がって爪に侵入します。爪まで広がるには時間がかかるため、爪水虫は若い人には少なく、高齢者の割合が多くなります。足水虫と異なり、痒みを伴うことはなく、爪が白濁して分厚く変形するだけです。

爪水虫の診断で最も重要なことは、皮膚科専門医がいるクリニックで、爪の小片の顕微鏡検査や抗原検査で、水虫菌の存在を確認してもらうことです。クリニックによっては見ただけで爪水虫と診断して治療を始める医師がいますが、これは間違っています。爪が白濁変形する病気はいろいろあり、爪水虫はその一部にすぎません。爪水虫でない疾患に水虫治療をしても病気は治りません。

 爪水虫の治療を始めるに当たっては、治療を受ける人の生活状況を今一度確認することが重要です。爪水虫の治療を受けるのが本人というのが大部分ですが、高齢の親というケースもよくあります。爪水虫であることで何が困るかです。爪水虫が原因で重い感染症になる可能性は高くありません。癌(がん)にもなりません。やはり一番は見た目でしょう。また爪が変形して厚くなったために靴が履けないというのも理由になります。孫や子供をはじめ家族に水虫を感染させたくない、というのも大きな動機付けになります。

 足の爪が伸びない人(最近爪を切ったことがない)は積極的な爪水虫治療をすることができません。爪が伸びないかぎり、爪の中の水虫菌を排除できないし、見た目も変わらないからです。また、高齢者用の施設に入所している人も、他の人に感染しないようにする消極的な治療法で十分と考えます(積極的に治療すればムダ金になります)。消極的な治療法は、足水虫用の外用薬を毎日爪や足底に塗ることです。使用できる薬剤は院長ブログ29を参考にしてください。医療機関を受診しなくても薬局でも買えます。外用薬を塗っても爪の見た目は変わりませんが、他の人には感染しなくなります。家族から治療を催促されても治療をためらっている人は、この方法で家族の要望に応えることができます。

 積極的な爪水虫治療薬には内服と外用がありますが、内服薬の方が治る確率(治癒率)が高くお勧めです。外用薬は軽症の人が対象となります。国内で使用できる代表的な薬剤にはフォスラブコナゾール(ネイリン®)とテルビナフィンがあります。フォスラブコナゾールは2018年に発売された薬剤で、国内で行われた臨床試験2)は、足の親指爪に25%以上100%未満の白濁がある患者101人を対象にしています。100mgカプセルを1日1回12週間内服し、その後無治療で観察して、内服開始48週後の完全治癒率(爪の白濁がない)が59.4%でした。プラセボ群は5.8%(52人対象)で、有意差が認められました。副作用は肝機能障害や皮疹でした。いっぽう、テルビナフィンは1997年に発売された古い薬剤で、海外で多くの臨床試験が実施されています1)。わが国における用量である125mg錠は海外の半分量であり、フォスラブコナゾールと同一の条件で比較した臨床試験はありません。耐性菌の出現(院長ブログ28)も含め、効果ではフォスラブコナゾールにやや劣り、副作用の肝機能障害については重篤な症例が報告されています。125mg錠を1日1回6か月間内服します。フォスラブコナゾールは3か月内服して3か月経過観察、テルビンフィンは6か月内服するのが1コースとなります。爪の伸びが悪い人など、この期間内に完全に爪がきれいにならない場合には、もう1コース繰り返す場合があります。いずれの薬剤も数%ですが、肝機能障害の副作用があるため、1か月に1回程度の定期的な血液検査が必要です。薬剤費は、フォスラブコナゾールの3か月間に要する費用は3割負担の人で20,533円(1か月当たりではその1/3)、テルビナフィンは後発医薬品が利用できるので、6か月間で2,000円前後です。効果、副作用、治療期間、採血の回数、価格を勘案してどちらにするか決めてください。個人的には、価格は高くなりますが、治癒率が高く、副作用が軽度で、治療期間が短いフォスラブコナゾールをお勧めします。

 内服薬が基本ですが、爪水虫の程度が軽い人は外用薬も選択できます。爪の根本(後端)まで白濁がなく、侵されている爪の本数が少ない人が対象です。ほとんどの足指の爪が白い人は外用治療の対象にはなりません。内服薬を飲みたくなくて、外用薬を希望する人が多いですが、治りませんので医療費のムダになります。外用薬にはエフィナコナゾール10%(クレナフィン®など)とルリコナゾール5%(ルコナック®)の2種類があります。エフィナコナゾール10%の大規模二重盲検試験3)は2回行われています(n=870人、n=785人)。足の親指の爪の20-50%が白濁している人を対象にしています。1日1回48週間外用し、さらにその4週間後の完全治癒率(爪の白濁がない)は17.8% と15.2% でした(プラセボ群は3.3%と5.5%)。副作用は局所の皮膚炎でした。いっぽう、ルリコナゾール5%の臨床試験4)は一つあり(n=293人)、足の親指爪の20-50%が白濁している人を対象にしています。1日1回48週間外用し、完全治癒率は14.9% でした(プラセボ群は5.1%)。副作用は局所の皮膚炎でした。2薬剤の効果を直接比較した二重盲検試験はありませんが、効果に差がないとする臨床報告はあります5)。クレナフィンの後発医薬品が発売されたので、いずれの薬剤も3割負担の人で1本700円程度の負担です。外用薬としてはやや高額です。どちらが良く効くとは言えませんが、特徴は違います。どちらか3か月使用して効果が認められない場合(爪の白濁面積が減らない)には別の薬剤に変更するのがよいと思います。白く厚くなっている爪の上からと横・前の両方向から塗ります。余った液体は拭き取ってください。接触皮膚炎(かぶれ)が時々おこるので、どちらか外用していて周囲が赤くかゆくなった場合には、もう一方の薬剤に変更してください。外用薬治療は軽症の人が対象で、実臨床では30-40%の治癒率で、1年間以上の治療期間が必要です5)。重症の人や爪が伸びない人は外用治療では治りません。


文献

1)真菌症診療ガイドライン2019 日皮会誌129: 2639-2679, 2019. 

2)J Dermatol 45: 1151-1159, 2018.

3)J Am Acad Dermatol 68: 600-608, 2013. 

4)J Dermatol 44: 753-759, 2017.

5)Med Mycol J 60: 95-100, 2019.


                            2025/11/12西新宿サテライトクリニック 坪井 良治

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