院長ブログ6 ミノキシジル低用量内服の発毛効果について(2025)  | 新宿区西新宿の皮膚科・内科 | 西新宿サテライトクリニック
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院長ブログ6 ミノキシジル低用量内服の発毛効果について(2025) 

 ミノキシジルは代表的な発毛成分で、外用育毛剤は男女を問わず世界的に広く使用されています。ミノキシジルはもともと内服降圧薬として米国で開発され、その副作用に多毛が多かったことから外用育毛剤に転用されたものです。しかし、降圧薬としては評価が低く、心臓に対する副作用からほとんど使用されない状況でした。そこで、世界の脱毛症専門家が低用量のミノキシジルを用いて小規模な臨床試験を10年間繰り返し、発毛効果と副作用のバランスの良い用量が探索されました。その結果、外用薬が使用できない人のためのsecond-line治療薬として、脱毛症専門家の間でコンセンサスが得られるようになりました。しかし、ミノキシジル低用量内服が将来的に認可される可能性はありません。あくまで個人責任での購入、内服となります。最近の状況と、使用にあたっての注意点をまとめてみました。

 ミノキシジル(Loniten®)は1979年にアメリカ食品医薬品局(FDA)から認可された降圧目的の内服薬で、米国などでファイザーから発売されています。Loniten® (2.5mg, 10 mg錠)は、5-40mg/日で内服され、体液を貯留し、急速に血圧を下げますが、効果/副作用のバランスが悪い薬として発売元からも評価されていません。また、頻脈、心膜液貯留や心タンポナーデなどをひき起こす可能性があるとしてFDAから警告も出ています。いっぽう、1988年にミノキシジル外用(Rogaine)が発毛を目的としてFDAから認可され、それ以後は外用ミノキシジルが脱毛症に対するfirst-line治療薬として世界中で使用されるようになりました。

 発毛を目的とした内服ミノキシジルの大規模な二重盲検比較試験は行われませんでしたが、2015年ころから副作用の低減を求めて、低用量ミノキシジルの小規模臨床試験が繰り返し実施されてきました1)。女性型脱毛症に対するミノキシジル0.25mg/日(14人)と1mg/日(12人)を24週間内服した少人数の二重盲検比較試験2)では、2群間に単位面積あたりの毛髪数に有意差(p<0.008)が認められました。副作用は1mg内服群2例に多毛が認められました。ミノキシジル低用量内服と外用を比較した無作為試験はこれまでに4つ報告があります3)。対象が男性、女性と異なり、用量も異なりますが、いずれの試験でも内服と外用に効果差は観察されていません。そのひとつ、女性型脱毛症に対するミノキシジル1mg/日内服(26人)とミノキシジル5% 1日1回外用(26人)を24週間比較した試験4)では、総毛髪密度が内服群で12%、外用群で7.2%増加しましたが、統計学的有意差はありませんでした。副作用は内服群で下肢浮腫4%(1人)、多毛27%(7人)、心拍数の増加6.5% 、外用群では多毛4%(1人)、頭皮の痒み19%(5人)でした。男性型脱毛症を対象にした二重盲検比較試験5)では、ミノキシジル5mg/日内服(33人)とミノキシジル5% 1日2回外用(35人)を24週間比較して、毛髪数に統計学的有意差はありませんでした。副作用は内服群に多毛49%(22人)、頭痛14%(6人)が認められました。後ろ向きに2469例を解析した症例集積報告6)では、併用療法が行われている症例もあるので有効性を評価できませんが、女性の投与中央値は1.11mg/日で、男性は2.60mg/日でした。副作用は多毛15.1%、立ちくらみ1.7%、浮腫1.3%、頻脈0.9%などでした。

 ここからはミノキシジルの低用量内服を始めたいと考えている男女に対して意見を述べたいと思います。日本皮膚科学会の男性型・女性型脱毛症診療ガイドライン(2017年版)では、国内外でミノキシジルの内服が認可されていないことから、行うべきでない(D)との評価になっています。しかし、欧米の脱毛症専門家のコンセンサスをまとめた2025年の報告書7)では、ミノキシジル内服は用量を適切に調整すれば安全に使用できる方法であり、外用に次ぐ有効な治療法であるとされています。通常はミノキシジルを内服する必要はなく、より安全で全身の多毛が起こりにくい外用育毛剤を使用すべきです。しかし、被髪頭部に湿疹やアトピー性皮膚炎がある人、製剤に含まれるアルコールに刺激があり外用によりかゆみを生じる人、5%育毛剤の粘性が気になる人、フィナステリドなどとともに内服にそろえたい人、などがミノキシジル内服を考慮する対象になると思います。ただし、ミノキシジル本体にアレルギー性接触皮膚炎を起こした人は内服すべきではありません。内服量について、海外の専門家コンセンサス7)では女性1.25mg/日、男性2.5mg/日とされています。半年内服して効果がなく、副作用もない場合には、女性2.5mg/日、男性5.0mg/日まで増量することができるとされていますが、これらの用量は作用と副作用の分岐点に当たるため、慎重に対応することが求められます。副作用は全身多毛、顔面・下肢浮腫、起立性低血圧(立ちくらみ)、動悸・頻拍、胸痛、頭痛などです。副作用を生じた場合には内服を中止してください。狭心症、心筋梗塞、心不全などの心疾患がある人は内服すべきではありません。また高齢者も内服を避けるべきです。高血圧症の人への影響はなさそうです。錠剤はインターネット経由で安く買うことができます。5mg錠、10mg錠をピル・カッターで割ることで用量を調整することができます。ミノキシジル内服薬は医薬品副作用被害救済制度の対象外で、処方する医療機関、販売元、製造元ともに副作用が起こった時の補償はしてくれません。あくまでも個人責任での内服となります。

 今回は言及しませんでしたが、5%ミノキシジルの外用は男女ともに効果が高いです。買ってはみたが、自己判断で無効と考えて短期間で中止している人が多いかもしれませんが、きちんと撮影して評価すれば、かなりの有効性です。過去の4つの小規模比較試験3)-5)では外用と内服の間に有効差はありませんでした。当院ではミノキシジルの錠剤を処方していませんが、内服している人の経過観察はしています。内服の開始点から観察していないためとも思われますが、個人的には内服よりも5%ミノキシジル外用の方が有効性が高い印象です。


文献

1) J Am Acad Dermatol 84: 737-746, 2021.

2) J Am Acad Dermatol 87: 396-99, 2022.

3) Int J Dermatol 64: 479-484, 2025.

4) J Am Acad Dermatol 82: 252-253, 2020.

5)JAMA Dermatol 160: 600-605, 2024.

6)J Am Acad Dermatol 84: 1644-1651, 2021.

7)J Am Acad Dermatol 2025. https://doi.org/10.1016/j.jaad.2025.04.016                           

 

                            2025/7/7 西新宿サテライトクリニック 坪井 良治
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