院長ブログ9 効く薬・効かない薬 | 新宿区西新宿の皮膚科・内科 | 西新宿サテライトクリニック
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院長ブログ9 効く薬・効かない薬

保険診療において処方されている薬は、その疾患に対して効(き)くのが当然です。自由(自費)診療では効果のはっきりしない治療法があるのは仕方ないにしても、公費が含まれる保険診療で処方される薬は全て有効だと思っている人が大部分ではないでしょうか。実は必ずしもそうではありません。患者さんから要望が多いのは副作用のない(少ない)薬です。ところが、現実には副作用のない薬は治療効果も少ないことが多いのです。薬はもともと毒であり、効果と副作用を分離できた時に初めて薬として使用できるようになります。効く薬にはそれなりに副作用がありますので、それを良く認識して治療を継続することが重要です。逆に副作用が少ないという理由で継続しても、効果を実感できないばかりかお金と時間を無駄にしていることになります。

医薬品医療機器総合機構 (Pharmaceuticals andMedical Devices Agency; PMDA)は厚生労働省所管の独立行政法人で、医薬品の審査業務を行っています。PMDAは2004年に設立されています。したがって、ここ20年間に発売された新薬については、きちんとした体制で大規模無作為化臨床試験(Randomized Clinical Trial; RCT)が国内で行われ、医薬品の認可が審査されているので問題ありません。米国ではアメリカ食品医薬品局(Food andDrug Administration;FDA)が同様の任務を担っており、世界標準となっています。FDAで認められた薬でも、日本で使用されるには日本国内で臨床試験を行ってPMDAで認証されなければなりません。コロナワクチンもそうでしたが、いつも米国よりも発売が遅れてしまうのはそのためです。しかし最近、大型の新薬については世界同時に国際共同臨床試験が行われることが多くなり、その場合には日本でも米国と同時期に新しい薬を使用することができます。 

さて、問題は非常に古い時代に認可された薬です。日本だけで開発された薬については評価が厳密に行われていないものが多いのです。再審査制度はありますが、厳密ではありません。再評価するための大規模臨床試験RCTには10億円単位のお金が必要です。

当院では円形脱毛症の患者さんが多いですが、皮膚科関連で思いつく、問題があると思う薬を列挙してみます。 

セファランチン®(植物由来アルカロイド):1942年医薬品承認、1957年円形脱毛症に適応拡大、1995年再評価。

グリチロン®配合錠(甘草エキス):1948年発売、1955年内服薬、円形脱毛症に適応拡大、1991年再評価。

フロジン®外用液(塩化カルプロニウム):1969年発売、円形脱毛症に適応、2008年再評価。

いずれの薬も円形脱毛症に対して皮膚科クリニックでよく処方されている薬ですが、大規模臨床試験RCTはいずれも実施されていません。もちろんFDAの認可もなく、日本独自の薬です。効果は実感できないが、重篤な副作用もないというプロフィールです。日本の円形脱毛症ガイドラインの記載も歯切れが悪く、いずれの薬の評価も「保険適応があることや本邦における膨大な診療実績により安全性が担保されていることも考慮し,単発型および多発型の症例に併用療法の一つとして行ってもよい」(C1)となっています。つまり、効くかどうかは厳密には審査されたことがないのです。来院を継続してもらうには都合の良い薬ですが、効果は・・・、といった状況です。もちろん当院では処方していませんし、推薦もしていません。

 塩化カルプロニウムは育毛剤としてはカロヤン®として販売されています。ミノキシジルに比較すると効果は劣りますが、育毛剤として効果がないわけではありません。

皮膚科分野で思い浮かぶ似た薬としてはヨクイニンがあります。

ヨクイニン® (ハト麦エキス): 1967年発売、 尋常性疣贅に適応、1983年再評価。

ハト麦のエキスで、肌がすべすべすると言われていますが、確たる抗ウイルス作用があるようには思えません。ウイルス性イボは免疫を獲得して自然治癒しますので、おまじないのようなものでしょう。

ビタミン類も似た状況です。いずれのビタミンも欠乏すれば重篤な症状を引き起こしますが、過剰に摂取して期待する効果が得られることは証明されていません。逆にビタミンA,D,E,Kなどの脂溶性ビタミンは体内に蓄積するので過剰摂取は要注意です。そのため、一般薬にはこれらのビタミンは含まれていません。一番販売されているのはビタミンB群とビタミンCです。これらは過剰に摂取しても尿中に排泄されますので、問題ありませんが、ビタミンCは抗酸化剤として食品にも多く含まれています。ビタミンB群とビタミンCはニキビや皮膚炎、色素沈着に処方が認められていますが、処方条件が厳しくなっています。大規模臨床試験RCTはいずれも実施されていません。尋常性ざ瘡のガイドラインでも「痤瘡に,ビタミン薬内服を行ってもよいが,推奨はしない」となっています。

 外用薬で最も気になるのは保湿剤のヒルドイド®です。保険診療で「皮脂欠乏症」に適応がありますが、白色ワセリンと比較した時の優位性は証明されていません。

ヒルドイド®(ヘパリン類似物質含有外用薬):1954年発売、皮脂欠乏症に適応、1974年再評価。

ヒルドイド®ソフト軟膏の薬価は20.1円/g 。gあたりの価格がステロイド外用薬18.7円/gよりも価格が高いことを知っている患者様は少ないです。保護剤である白色ワセリンは2.4円/gで、ヒルドイド®ソフト軟膏の約1/10ですが、非常に安価で安全、かつ乾燥症状を強く抑制します。ヒルドイド®が保険適応の保湿剤として認められる根拠に乏しく、一般薬として販売されるのが適切と考えます。乾燥症状の軽い人、化粧の下地として使いたい人には良いと思います。アトピー性皮膚炎や皮脂欠乏性湿疹など乾燥症状のひどい人はクリームタイプの白い保湿剤ではなく、白色ワセリン(プロペト®、サンホワイト®など)やオイル(椿油、オリーブ油)などの油脂系保護剤の使用をお勧めします。  


                              西新宿サテライトクリニック 坪井 良治

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