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院長ブログ10 リトレシチニブ(リットフーロ®)が重症円形脱毛症を対象に発売

新しいJAK阻害薬、リトレシチニブ(リットフーロ®)が2023年9月27日に発売になりました。脱毛面積50%以上、12歳以上で6か月以上脱毛状態に変化のない慢性型円形脱毛症の患者様が対象です。バリシチニブ(オルミエント®)と類似の作用機序、効果、副作用を持つ薬剤ですが、12歳から14歳まで適用が広がったのが優位点です。新薬のため2週間に1回の受診が必要です。12歳以上で自治体による医療費助成制度が利用できる人には朗報です。高額療養費制度を利用するための長期処方は2024年9月1日から可能になります。それでは国際臨床試験結果からリトレシチニブの効果と副作用をみていきましょう。

リトレシチニブはJAK阻害薬ですが、JAK1、JAK2を抑制するバリシチニブと異なり、JAK3、TECを抑制します。作用点は異なりますが、作用機序は類似しています。副作用の観点からは、JAK1を抑制しないのは良い点ですが、新たにJAK3、TECを抑制することになるので、それに伴う副作用がどうなるかが注目点です。

国際臨床試験1)では、リトレシチニブ50mgカプセル内服24週間後のSALT20(脱毛面積20%以下)達成率は23%(29/124)でした。治療前の平均脱毛面積は90.3%でした。いっぽう、バリシチニブ4mg錠の2つの国際臨床試験の結果2)は以下の通りです。治療前の平均脱毛面積は85%でした。24週間後のSALT20達成率は26.7%(75/281)と28.2%(66/234)でした。さらに36週間後のSALT20達成率は35.2%(99/281)と32.5%(76/234)とでした。残念ながらリトレシチニブは二重盲検比較試験が24週で終了しているため、それ以後の2剤の正確な比較はできません。長期安全試験では、効果不良の参加者が脱落して効果が高めに出る傾向があります。リトレシチニブ50mgカプセルは内服48週後にSALT20達成率40%をやや超える値を達成しています1)。リトレシチニブ50mgカプセルとバリシチニブ4mg錠の効果を比較すると、治療前脱毛面積がリトレシチニブの方が5%重症なので、それを差し引くと、ほぼ同等の効果と推定されます。バリシチニブの方が効果の立ち上がりが早く、リトレシチニブはゆっくり効いてくるという印象と思います。

リトレシチニブの頻度の高い副作用はニキビ、頭痛、上気道炎、毛包炎、上咽頭炎、悪心、じん麻疹、尿路感染症などです。検査値の異常ではALT(GPT), CK(CPK)値の上昇が報告されています1)3)。そのほか薬剤と関連性がありそうな副作用として帯状疱疹があります。これらの発現はバリシチニブと比較して大きな差はありません。しかし、リトレシチニブでは、頻度は低く重症でないながら難聴や聴力低下が報告されています。また、皮下出血、鼻出血、歯肉出血などの出血が報告されています1)3)。

以上の情報からリトレシチニブ(リットフーロ®)50mgカプセルの使い方を考えてみましょう。12歳から14歳までの小児は選択の余地がありませんので、2週間に1回の受診は必要ですが、リトレシチニブの内服です。2024年9月1日からはリトレシチニブ、バリシチニブのどちらを内服しても、ほぼ同等の効果と副作用と推測されます。薬剤費はリトレシチニブの方が少し高いです。リトレシチニブは理論的には副作用が少ない可能性が高いですが、新薬で使用症例も少ないために、聴力、出血の問題を含め、副作用で問題が生じる可能性が残ります。バリシチニブで効果がなかった人はリトレシチニブを内服しても効果はでないと推測されます。ただし、バリシチニブ内服でSALT20は達成できなかったが、ある程度発毛効果が出ている人、あるいは副作用で中止となった人はリトレシチニブに変更して、少し改善する可能性はあります。バリシチニブからリトレシチニブ、さらにウパダシチニブ(リンヴォック®)(現在、適用拡大の臨床試験中)にハシゴすることも考えられます。

 

文献

 1)Lancet 2023; 401: 1518-1529.

 2)Am J Clin Dermatol 2023; 24: 443-451.

 3)ファイザー株式会社資料(2023.6. LIT51N006A)

             

                         2023/12/22 西新宿サテライトクリニック 坪井 良治

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