院長ブログ10 リトレシチニブ(リットフーロ®)による円形脱毛症の治療(2025) | 新宿区西新宿の皮膚科・内科 | 西新宿サテライトクリニック
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院長ブログ10 リトレシチニブ(リットフーロ®)による円形脱毛症の治療(2025)

 JAK阻害薬、リトレシチニブ(リットフーロ®)が発売されて1年半が経過し、治療経験も少しずつ蓄積されてきました。当院での処方はまだ多くありませんが、治療実績をまとめてみましたので、参考にしてください。 脱毛面積50%以上、12歳以上で6か月以上脱毛状態が固定した慢性円形脱毛症の人が内服できます。バリシチニブ(オルミエント®)と類似の作用機序、効果、副作用を持つ薬剤ですが、12歳から14歳まで適用が広がったのが優位点です。12歳以上の学童児では、自治体からの医療費助成により個人負担はほとんど発生しません。

 当院で、2025年2月までにリトレシチニブを内服した人は16名でした(添付資料)。内服の前提条件は、脱毛面積50%以上で、6か月以上固定している12歳以上の円形脱毛症の人です。そのうち、新規にJAK阻害薬を内服した人は9人で、そのうち当院を含め6か月以上経過観察できた6人について解析しました。平均年齢は15歳で、成人は1名だけでした。平均観察期間は9.3か月(6-15か月)でした。投与前の平均脱毛面積は84.8%で、脱毛面積100%の人数は2人だけでした。国際臨床試験における平均脱毛面積90.3%よりは軽症で、固定期間の短い小児が多いので、有効率が高めに出ることが予測されました。


 

 解析の結果、SALT20達成率(脱毛面積が20%以下になる:なんとか脱毛が隠せる面積)は50%(3/6)で、SALT10(脱毛面積が10%以下)達成率も 50%(3/6)でした。いっぽう、バリシチニブ4mgの発毛効果が十分ではなく、途中でリトレシチニブ50mgに変更した人が7人いました。その後の経過は、副作用中止1人 脱落3人、残り3人は内服中ですが、切り替え直後3-4か月のSALT平均改善率は10.3%でした。脱落は効果が実感できないために終了にした人と考えると、内服中の人を含め発毛促進に上乗せ効果がほとんどないことが推測されました。国際臨床試験1)では、リトレシチニブ50mgカプセル内服24週間後のSALT20(脱毛面積20%以下)達成率は23%(29/124)でした。治療前の平均脱毛面積は90.3%でした 。いっぽう、バリシチニブ4mg錠の2つの国際臨床試験の結果2)は以下の通りです。治療前の平均脱毛面積は85%でした。24週間後のSALT20達成率は26.7%(75/281)と28.2%(66/234)でした。さらに36週間後のSALT20達成率は35.2%(99/281)と32.5%(76/234)とでした。残念ながらリトレシチニブは二重盲検比較試験が24週で終了しているため、それ以後の2剤の正確な比較はできません。長期安全試験では、効果不良の参加者が脱落して効果が高めに出る傾向があります。リトレシチニブ50mgカプセルは内服48週後にSALT20達成率40%をやや超える値を達成しています1)。当院での新規内服患者さんは、DPCP局所免疫療法後の比較的固定期間が短く、100%脱毛でない人が多かったために良い成績になったと推測されます。国際臨床試験での治療前脱毛面積はリトレシチニブの方がバリシチニブよりも5%重症なので、それを差し引くと、内服1年後のトレシチニブ50mgカプセルとバリシチニブ4mg錠の効果はほぼ同等と推定されます。バリシチニブの方が効果の立ち上がりが早く、リトレシチニブはゆっくり効いてくるという印象です。

 リトレシチニブはJAK阻害薬ですが、JAK1、JAK2を抑制するバリシチニブと異なり、JAK3、TECを抑制します。作用点は異なりますが、作用機序は類似しています。副作用の観点からは、JAK1を抑制しないのは良い点ですが、新たにJAK3、TECを抑制するので、それに伴う副作用がどうなるかが注目点です。当院でのリトレシチニブの副作用は、ざ瘡や発熱などでした(添付資料)。汎発性帯状疱疹は、バリシチニブからリトレシチニブに切り替えて内服2日後から症状が出始めているので、どちらの薬剤がきっかけなのかは断定できない状況です。症状は治癒しましたが、患者都合で一時終了となりました。同じく、バリシチニブからリトレシチニブに切り替えて1週間以上にわたり下腿の倦怠感が持続したため、自己判断で中止して、バリシチニブ内服に戻した人が1人いました。リトレシチニブの頻度の高い副作用はニキビ、頭痛、上気道炎、毛包炎、上咽頭炎、悪心、じん麻疹、尿路感染症などです。検査値の異常ではALT(GPT), CK(CPK)値の上昇が報告されています1)3)。さらに、頻度は低く重症でないながら難聴や聴力低下が報告されています。また、皮下出血、鼻出血、歯肉出血などの出血も報告されています1)3)。最近報告された国内市販直後調査の報告(6カ月間、推定408名が内服)では、副作用は58例83件でした。報告の多い症状として、頭痛、上咽頭炎、ざ瘡、倦怠感、悪心があり、重篤な副作用として自律神経ニューロパチー、CKの異常高値が報告されています4)。

 以上の情報からリトレシチニブ(リットフーロ®)50mgカプセルの使い方を考えてみましょう。12歳から14歳までの小児は選択の余地がなくリトレシチニブの内服です。15歳以上の大人はリトレシチニブ、バリシチニブのどちらを内服しても、ほぼ同等の効果と副作用と推測されます。医療費が3割負担の場合には、薬剤費はリトレシチニブの方3割高くなりますが、高額療養費制度を利用する場合には個人負担は同額です。リトレシチニブ内服で発毛効果が出た人は内服の継続です。バリシチニブの報告では、効果が出た人が内服を中止すると、80%の人で脱毛状態が元にもどったと報告されているからです。リトレシチニブを1年間内服しても効果が出なかった人は、内服を中止して新たなブレイクスルーを待つしかないと思います。他のJAK阻害薬に変更しても効果は出にくいです。リトレシチニブを内服して、ある程度の効果は出たけれども、十分でない人は、そのまま継続するか、15歳以上の人には、1年後にウパダシチニブ(リンヴォック®)が適応拡大されて、円形脱毛症だけでも内服可能になる可能性が高いので、それを待って変更してもよいかと思います。ただし、副作用の頻度と程度は重くなります。

 

文献

 1)Lancet 2023; 401: 1518-1529.

 2)Am J Clin Dermatol 2023; 24: 443-451.

 3)ファイザー株式会社資料(2023.6. LIT51N006A)

 4)ファイザー株式会社資料(2024.12.EPV68O012A)

             

                         2025/3/31 西新宿サテライトクリニック 坪井 良治

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