院長ブログ11 バリシチニブ(オルミエント®)による円形脱毛症の治療実績(2023-2024) | 新宿区西新宿の皮膚科・内科 | 西新宿サテライトクリニック
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院長ブログ11 バリシチニブ(オルミエント®)による円形脱毛症の治療実績(2023-2024)

 2022年6月にバリシチニブ(オルミエント®)が円形脱毛症に適用拡大になって約1年半が経過しました。また、院長ブログ8 「 JAK阻害薬による円形脱毛症の治療:現況と展望」を書いてからも約1年が経過しました。そこで今回は当院(西新宿サテライトクリニック)でバリシチニブを内服されている患者様の現況について報告したいと思います。

2022年7月に処方を開始して、2023年12月までにバリシチニブを内服した人は60名でした(添付資料)。内服の前提条件は、脱毛面積50%以上で、6か月以上固定している15歳以上の円形脱毛症の人です。そのうち、当院が初診扱いで約6か月以上経過観察できた47人について解析しました。投与前の平均脱毛面積は87%で、脱毛面積100%の人数割合は62%でした。国際臨床試験における平均脱毛面積は85%であり1)2)、患者背景の重症度はほぼ同じでした。

解析の結果、SALT20達成率(脱毛面積が20%以下:なんとか脱毛が隠せる面積)は36.2%(17/47)で、SALT10達成率は30.0%(14/47)でした。この結果は、281人(別の同様試験234人)で実施された国際臨床試験の9か月経過時のSALT20達成率35.2%(別の同様試験32.5%)とほぼ同等で、再現性が確認されました。この結果を投与前の脱毛面積で分類してみると、脱毛面積100%の人のSALT20達成率は27.5%(8/29)、脱毛面積50%以上100%未満の人のSALT20達成率は50%(9/18)でした。つまり、脱毛程度の軽い人の方が反応が良好でした。国際臨床試験でも同様な傾向が報告されています。また国際臨床試験では、重症期間が8年間以上続いている人は参加できませんでした。したがって、バリシチニブの適用は脱毛面積50%以上の重症円形脱毛症の患者様ですが、できるだけ脱毛程度が軽い時期に治療を開始した方が良好な結果が得られることがわかります。当院でバリシチニブを内服した人は60名ですが、12名は効果不十分と認識して、すでに内服を中止しています。また、内服中に発毛が良好に見られても、経過中に悪化する例が13%(6/47)認められました。その理由は明らかではありませんが、円形脱毛症の活動度が季節で変動する可能性や薬剤の特性が推測されます。
 

 

 投与期間中に認められた副作用は添付資料の通りです。投与した全員60人を対象にしています。重篤な副作用は虫垂炎の1人でした。虫垂炎が多い家系で、本人に薬剤との関連性についての認識はなかったようです。ざ瘡はあきらかに増えます。興味深いのは、この薬剤がアトピー性皮膚炎の治療薬でありながら、投与中に皮疹やかゆみが悪化する人が2人いたことです。血液検査では筋肉に関連したCPK値の上昇や高脂血症関連の検査値が上昇することがよく観察されましたが、薬剤の投与中止に至った症例はありません。2つの国際臨床試験では、上気道炎、頭痛、鼻咽頭炎、ざ瘡、尿路感染症、CPK値の上昇、COVID-19感染症が頻度の高い副作用でした1)2)。バリシチニブ4mg 錠52週間の内服期間中に認められた重症な副作用は帯状疱疹6人、虫垂炎1人、腎盂腎炎1人、COVID-19肺炎1名でした(母数513名)1)2)。円形脱毛症の国内市販後調査結果はまだ発表されていませんが、アトピー性皮膚炎を対象とした市販直後調査はすでに実施されて、1673施設を対象に副作用が集積されています3)。入院を要する重篤な副作用は帯状疱疹とブドウ球菌感染症の2例だけでした。以上のことから、バリシチニブ4mg 錠は、当初予想されていたよりかなり安全に使用できることが判明しました。これは、最初に適用が認められた関節リウマチは高齢者が多く、自己免疫疾患としての背景も影響していると考えられます。幸い、アトピー性皮膚炎や円形脱毛症の患者様は若い人が多く、ほかに免疫抑制をきたす背景がないことが重篤な副作用が少ない理由として考えられます。

 

 

 以上のことから、1年半前のバリシチニブ4mg 錠発売時に比較すると、この薬剤に対する私の考えは改善しています(添付資料)。つまり、効果が比較的高く、副作用はかなり少なく軽く、安全性が高いということです。また、すでに述べたように薬剤の反応性は、重症でも比較的早期の軽い人の方が良いということです。長期に放置して最重症の状態で固定すると反応が悪くなることが示唆されます。関節リウマチやエリテマトーデスなどの膠原病や自己免疫性水疱症などでは、早期治療により臓器破壊の進行を抑制することができ、一定期間のしっかりした治療により、投与薬剤量の減量や、病勢の減弱により治療が不要になることもあります。同じ自己免疫疾患である円形脱毛症でも同じようなことが起こることが推測されますが、これをデータで証明することは現時点ではできません。バリシチニブ4mg (オルミエント®)錠には、4年後に後発医薬品が発売される可能性が高いですが、薬剤費が安くなるまで待つよりも、できるだけ早くバリシチニブ錠の内服を開始して、その後に後発医薬品に変更して病勢が弱まるのを待つ方が効果/副作用/費用のバランスを考えると得策と考えます。

 当院でバリシチニブ4mg (オルミエント®)錠を6か月以上内服している人の状況を分類すると3つに分かれます。約1/3の人は発毛が良好でSALT20を達成してウィッグなしで生活できて満足されています。また約1/3の人は発毛効果がほとんどなく、残り約1/3の人は反応が中途半端で、眉毛睫毛は出てきたが、頭髪の発毛は不十分でウイッグが外せない、今後どうしようかと迷っておられます。発毛効果がほとんど出なかった人は次のブレイクスルーの薬剤が出現するのを待ってもらうしかないと思います。

発毛効果が中途半端であった約1/3の人が、次にどのように対応するかが問題です。バリシチニブ錠の増量内服は認められていません。そこで、すぐにできる対応しては、ステロイド外用薬の密封療法や局所免疫療法との併用です。ミノキシジル外用も補助療法としては有効と思われます。新しいJAK阻害薬リトレシチニブ(リットフーロ®)50mg錠が発売されましたが、作用機序がほぼ同じで効果もほぼ同等なため、変更による効果の増加を期待するのは難しいと思います。むしろ、効果のやや優れるウパダシチニブ(リンヴォック®)が円形脱毛症の適用拡大をめざして国際臨床試験中ですので、それを待つ方が良いと思います。ただし、適用拡大には1~2年程度かかると思われます。また、この薬剤は15mg錠から30mg錠への増量も可能なところも利点です。ただし、副作用も増加する可能性があります。円形脱毛症だけでなく、中等度以上のアトピー性皮膚炎を合併している人は、現時点でもウパダシチニブ(リンヴォック®)やアブロシチニブ(サイバインコ®)に内服を変更することが可能です。                                    

                  

 文献  

 1)N Engl J Med 2022; 386: 1687-1699.

 2)Am J Clin Dermatol 2023; 24: 443-451.

 3)日本イーライリリー株式会社資料(2021.9. OLM-N011)  

 

                       2023/12/22 西新宿サテライトクリニック 坪井 良治

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