JAK阻害薬のひとつ、ウパダシチニブ(リンヴォック®)は2021年8月から中等度以上のアトピー性皮膚炎に対して内服処方され効果を発揮しています。さらに現在、円形脱毛症への適用拡大をめざして国際臨床試験が進行中です。よく知られているように、円形脱毛症は約40%の確率でアトピー性皮膚炎を合併します。中等度以上のアトピー性皮膚炎に対してウパダシチニブを内服している人の中で、円形脱毛症を合併している人に対する効果を検証してみました。症例数は少ないですが、治療実績を報告します。
2022年12月に処方を開始して2024年3月までに、円形脱毛症を合併するアトピー性皮膚炎の治療目的にウパダシチニブ(リンヴォック®)15mg錠を内服した人は19名でした(添付資料)。ウパダシチニブ投与の基準はEASIスコア16以上の中等度以上のアトピー性皮膚炎です。19名のうちEASIスコア40以上の重症アトピー性皮膚炎は1名のみで、おおむね中等度のアトピー性皮膚炎を有する人でした。20歳未満は2名で、男女比は16:3で男性の割合が高かったです。当院で内服を開始し、6か月以上経過観察できた14人について解析しました。投与前の脱毛面積が50%未満であったのは3人(平均脱毛面積29.3%)で、脱毛面積が50%以上であったのは11人(平均脱毛面積95.4%)でした。
投与前の脱毛面積が50%未満であった3人のSALT20達成率は100%(3/3)、SALT10達成率は67%(2/3)でした。SALT20達成率とは、治療により脱毛面積が20%以下になった人の割合です。いっぽう、投与前の脱毛面積が50%以上であった11人のSALT20達成率は 54.5%(6/11)、 SALT10達成率は45.5%(5/11) でした。
次に、すでに報告しているバリシチニブ(オルミエント®)4mg錠の治療実績(院長ブログ11)と比較してみたいと思います。脱毛面積が50%以上の場合、投与前の平均脱毛面積はバリシチニブが87%で、ウパダシチニブは95.4%でした。つまり背景となる患者重症度はウパダシチニブの方がやや重症ということになります。解析の結果、バリシチニブのSALT20達成率は36.2%(17/47)で、SALT10達成率は30.0%(14/47)でした。症例数が少ないため断定的なことは言えませんが、ウパダシチニブの方が有効性が高い傾向が認められました。ウパダシチニブ15mg錠を半年以上内服しても、ほとんど発毛効果が見られなかったのは4名で、うち3名は過去にバリシチニブ4mg錠の内服歴があり、同じく全く無効でした。3名の他に2名にバリシチニブからウパダシチニブへの内服変更がありましたが、内服時期も異なるため効果の優劣を明確に示すことはできませんでした。
副作用については添付資料の通りです。19人中10名に副作用の申告があり、複数の症状や全身症状、持続する症状を訴える人がありました。体調不良の持続により内服を中止し、バリシチニブに変更して副作用がなかった人も1名経験しました。バリシチニブでも60名中、約半数の29名に副作用の申告がありましたが(院長ブログ11)、半数以上がざ瘡であり、ウパダシチニブよりも症状が軽い印象を持ちました。アトピー性皮膚炎に対するウパダシチニブ内服治療(7.5mg, 15mg, 30mg錠)の国内市販直後調査1)では1486人に投与され、108人149件の副作用が報告されています。その内訳はざ瘡12件、悪心9件、発熱8件、ヘルペス性湿疹7件、帯状疱疹7件、CK増加6件、そう痒症5件、アトピー性皮膚炎4件、倦怠感4件、頭痛4件、腹痛4件、単純ヘルペス3件などです。重篤な副作用は3人4件で、ヘルペス性湿疹、感音性難聴、好中球数と白血球数減少でした。
ウパダシチニブ(リンヴォック®)の円形脱毛症への適用拡大をめざした国際臨床試験が現在進行中ですが、結果は報告されていません。また、今回の私の報告のように、円形脱毛症を合併するアトピー性皮膚炎に対するウパダシチニブの効果が散発的に報告されていますが、統計学的に評価するレベルではありません。また、製薬会社が違うため、バリシチニブとウパダシチニブの円形脱毛症に対する効果を直接比較する臨床試験が今後計画される可能性は低いと予想します。
最後に以上の結果を踏まえて、円形脱毛症の人がJAK阻害薬を内服する場合、どの薬剤を内服するのがよいかを考えてみたいと思います。まず試してみる薬剤としては、効果がそこそこで、比較的安全性の高いバリシチニブ(オルミエント®)4mg錠の内服をお勧めします。6か月の内服でSALT20を達成し十分な効果が得られた人は内服を継続する。逆にほとんど発毛効果が得られなかった人は中止する。他の2薬剤に変更しても十分な効果は得られないと思います。その中間で、中途半端な効果は得られたがウイッグが外せない人は、リトレシチニブ(リットフーロ®)50mg錠や、アトピー性皮膚炎の合併がある人はウパダシチニブ(リンヴォック®)15mg錠への変更が考えられます。アトピー性皮膚炎の合併があり、高い効果を狙っている人は最初からウパダシチニブを内服することができますが、副作用には十分気を付けてください。ウパダシチニブは30mg錠に増量することもできますが、増量するとさらに副作用を生じやすくなるので、恒久的に内服することはせず、季節的変動などで脱毛が増えた時の一時的な内服増量にとどめた方がよいと考えます。リトレシチニブは円形脱毛症だけを適用にした新薬で、2024年8月末までは2週間処方しかできません。また、今年度の薬価改定で薬価がバリシチニブやウパダシチニブよりも3割高い点もマイナス点です(高額療養費制度を利用する人は3か月間処方に限り差なし)。いずれのJAK阻害薬も半減期が短いので、薬剤の作用のOn-Offがはっきりしています(日単位)。高熱や感染症などの副作用や予期せる事態が発生した場合には一時的に内服を中止することが重要です。
文献
1)アッヴィ合同会社資料(2022.4.作成 OT-RNQD-220001-1.0)
2024/04/01 西新宿サテライトクリニック 坪井 良治
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