男性型脱毛症(AGA, MPHL)に対して適用のある薬剤には、5α還元酵素阻害作用の内服薬2種類(フィナステリド、デュタステリド)と外用薬1種類(ミノキシジル)があります。プロペシア®(フィナステリド)、ザガーロ®(デュタステリド)ともに後発医薬品が発売されていて、2025年現在で新規の薬剤は発売されていません。そこで、内服2薬剤の臨床試験結果を見直すと同時に、当院における臨床実績を示して、どちらの内服薬を選択するのが良いのか、発毛効果と安全性の面から再検討してご報告します。
男性型脱毛症治療薬の有効性評価は、写真による外観評価と、単位面積当たりの毛髪数を数える評価法(フォトトリコグラム)で行われます。フィナステリド(プロペシア®)の国際臨床試験1)では、軽症から中等症までの男性型脱毛症患者1553人が参加して行われました。フィナステリド1mg内服12か月後に改善と判断された人は658人のうち48%、プラセボ群は646人のうち7%でした。毛髪数については876本/5.1cm2であったものが、内服1年後にはフィナステリド群では86本(11%)増え、プラセボ群は21本(2.7%)減りました。日本人を対象にした48週間内服の臨床試験2)では、フィナステリド1mg内服後に改善と判断された人は129人のうち58%、プラセボ群は132人のうち6%でした。 国際臨床試験は延長して5年間実施され3)、フィナステリド1mgを5年間継続して内服した270人のうち改善と判断された人は48%で、効果が維持されました。5年間の毛髪数の変化は内服1年後をピークに徐々に減り、5年後には38本増えた状態でした。いっぽうプラセボ群では239本減っていました。これは年齢とともに男性型脱毛症が徐々に進行するためと思われます。いっぽうデュタステリド(ザガーロ®)0.5mg錠については、フィナステリド1mg錠と24週間内服して効果を比較した国際臨床試験があります4)。デュタステリド0.5mgを内服した153人の毛髪数/5.1cm2の増加は89.6本、フィナステリド1mgを内服した141人の毛髪数は56.5本の増加で、その間には有意差がありました。プラセボ群181人の毛髪数は4.9本の減少でした。外観評価では、フィナステリドとデュタステリドはプラセボ群に対して統計学的に有意に発毛が増加していました。また、デュタステリドはフィナステリドよりもやや有効性が高い評価でしたが、統計学的な有意差は前頭部だけで、頭頂部の外観評価では有意差が認められませんでした。二重盲検試験ではありませんが、韓国で実施された臨床試験5)では、フィナステリド1mgを6か月以上内服して効果が見られなかった31人がデュタステリド0.5mgに変更して6か月内服して効果を比較しました。その結果、77.4%(24人)が外観評価で改善し、22.6%(7人)は変化がなく、悪化した人はいませんでした。
当院は開院から3年半を経過しましたが、この期間にフィナステリド1mgを内服したことがある人は294人、デュタステリドを内服したことがある人は72名でした。当院では3-6か月ごとに写真を撮る外観評価で効果を判定しています。フィナステリドは内服人数が多いため、今回はデータを解析しませんでした。デュタステリドは人数がそれほど多くなく、フィナステリドの効果に満足せず中途でデュタステリドに変更する人が多かったため、このグループについて解析してみました。デュタステリドを内服したことがある人は72名で、そのうち2回以上来院した61人について副作用調査をしました。また、フィナステリドを6か月以上内服して、デュタステリドに変更し、さらに6か月以上継続して内服した31人について、変更後6~12か月時点で有効性を評価しました(副作用のための中途内服中止を含む)。その結果、デュタステリドに変更して、さらに発毛が促進(改善)した人は74%でした。その内訳は著明改善4人(12.9%)、中等度改善5人(16.1%)、軽度改善14人(45.12%)でした。変化がなかった人は4人(12.9%)、悪化した人は3人(9.7%)、副作用中止は1人(3.2%)でした。およそ3/4の人は変更することにより薄毛状態がさらに改善し、1/8は変化なし、1/8は悪化することになります。以上の結果から、当院の解析結果は韓国の臨床試験データに近く、デュタステリド0.5mgの方がフィナステリド1mgよりもやや効果が高いことが推測されました。
両薬剤の副作用については、作用機序が似ているので、同じような副作用が報告されています。一般薬剤としては非常に安全な薬剤と言えますが、これらの薬剤に特有な性機能に関する副作用がありますので注意が必要です。フィナステリドの国際臨床試験期間中に認められた性機能に関係する副作用は、フィナステリド4.2%、プラセボ群2.2%で、内訳は性欲減退1.9%(15人) 勃起不全1.4%(11人)、精液量減少1.0%(8人)でした1)。5年間の内服継続試験では、3年目以降はこれらの副作用はほとんど出現しませんでした3)。デュタステリドの国際臨床試験4)での性欲減退、勃起不全、射精障害の副作用は、デュタステリド0.5mg群、フィナステリド1mg群、プラセボ群の順番に、それぞれ 4.9%-6.7%-1.7%、5.4%-6.1%-3.9%、3.3%-3.9%-3.3%でした。デュタステリドとフィナステリドの間に大きな差がないこと、プラセボ群でも一定数の副作用の報告があることがわかります。プロペシア®錠の市販後調査6)では約3年間に943例が収集され、副作用は0.5%(5人)で、内訳はリビドー減退2人、生殖系および乳房障害1人、肝機能異常1人、肝障害および勃起不全1人でした。ザガーロ®カプセルの市販後調査7)では約2年半の間に4,320例が収集され、副作用の内訳は性機能不全(リビドー変化、インポテンス、射精障害)が0.6%(27人)、乳房の圧痛および腫大0.2%(7人)、肝機能障害・黄疸0.1%(5人)、抑うつ気分0.02%(1人)でした。当院の臨床実績でも、副作用は非常に少なく、デュタステリドを内服した61人のうち、6.5%(4人)でした。内訳は性欲減退が2人、血精液症1人、倦怠感1人です。持続的倦怠感の人は内服中止して、フィナステリドに変更になりましたが、ほかの3人は継続して軽快しています。

フィナステリドとデュタステリドの化学的特性をまとめると表のようになります。どちらの薬剤もTestosterone (T) を活性化してdihydrotestosterone (DHT)にする5α還元酵素を抑制します。性機能に働くのはTであり、DHTは前立腺やニキビ、男性型脱毛症などにしか関係しないので、DHTを抑制しても性機能に問題を生じません。元々は前立腺肥大症の内服治療薬です。DHTを抑制すると代償性に血中Tは少し上昇します。胎生期におけるDHTの重要な役割として、男性外性器の形成があります。したがって、奇形の防止のために妊娠可能女性の内服は禁忌になっています。ただし、パートナーの男性が内服していても、精液から移行する量は無視できるので問題ありません。妊娠中の女性が輸血を受ける可能性があるので、5α還元酵素阻害薬を内服中の人は輸血の提供ができません。ただし、ドーピングの対象薬にはなっていません。男性型脱毛症の治療のためにはII型酵素を抑制するフィナステリドだけで十分です。デュタステリドはI型酵素も抑制してしまいますが、II型酵素をフィナステリドに比較すると強く抑制するので、臨床的に効果がやや高くなると推測されます。I型酵素は全身に広く分布するため、余分な副作用が心配されましたが、I型酵素を強く抑制するわけではないので、それに伴う副作用は報告されていません。デュタステリド0.5mgの内服は総精子数、精液量、精子運動率を20%程度減少させます。内服を中止すると回復しますが、妊活中の男性は内服を避けた方がよいと思います。男性不妊症の原因になりえます。デュタステリドは半減期(血液中の薬剤量が半分になるまでの時間)が長いので、内服を忘れたとしても効果の減少は少ないですが、副作用を生じたときには、内服を中止しても症状は1か月程度持続しますので注意が必要です。
以上の結果を総合的に判断して、これからフィナステリドやデュタステリドを内服しようとしている人や変更を考えている人に参考になる意見を書きます。基本的にはフィナステリド1mg内服で十分です。日本ではフィナステリド0.2mgも認可されていますが、この用量では効果が不十分です。デュタステリドはフィナステリドよりもやや効果が高いです。フィナステリドを6か月間内服して効果が不十分と感じる人や、最初から強い効果を期待する人はデュタステリドが良いでしょう。ただし、精液量がより減少しますので、若い人、特に挙児希望中の人はフィナステリドが良いと思います。デュタステリドは前立腺肥大症の治療薬でもあるので、50歳以上の人は一石二鳥でデュタステリドの方が良いかもしれません。いずれの薬剤も効果は内服1年後がピークであり、その後は同程度で維持されるか、年齢の進行に伴う男性型脱毛症の自然悪化で効果が少し落ちます。また、いずれの薬剤も内服を中止すると、脱毛が増えて半年後にはもとの状態にもどります。副作用は、いずれの薬剤も飲み始めに生じることが多く、中途から生じることは稀です。今回は言及しませんでしたが、5%ミノキシジルの外用も効果が高いです。買ってはみたが、自己判断で無効と考えて短期間で中止している人が多いかもしれませんが、きちんと撮影して評価すれば、かなりの有効性です。最初から、あるいは内服薬の効果に限界を感じた時に5%ミノキシジル外用を併用すると高い治療効果が期待できます8)。
文献
1)J Am Acad Dermatol 39: 578-589, 1998.
2)Eur J Dermatol 14: 247-254, 2004.
3)Eur J Dermatol 12: 38-49, 2002.
4)J Am Acad Dermatol 70: 489-498, 2014.
5)Int J Dermatol 53,1351-1357, 2014.
6)プロペシア®錠 再審査報告書 医薬品医療機器総合機構 平成27年7月14日
7)ザガーロ®カプセル 再審査報告書 医薬品医療機器総合機構 令和2年11月9日
8)J Dermatol 29:489-498, 2002.
2025/05/26 西新宿サテライトクリニック 坪井 良治
© Tsuboi 2025