漢方医ブログ⑯ 安中散(あんちゅうさん) | 新宿区西新宿の皮膚科・内科 | 西新宿サテライトクリニック
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漢方医ブログ⑯ 安中散(あんちゅうさん)

 前回ご紹介した六君子湯は、胃もたれやむかつきあるいは食欲不振といった症状に大変効果があるというお話をしました。しかし胃の症状は多彩で、胃の痛みや胃けいれんの症状に困っている人もいるでしょう。前回も触れた機能性ディスペプシアという病気は、詳しく言うと胃もたれタイプと胃痛タイプの2種類があります。六君子湯は胃痛にも一定の効果がありますが、どちらかというと胃もたれタイプの治療を得意としています。それでは胃痛タイプによい漢方薬は何か?それが今回お話しする安中散です。

 安中散は13世紀の宋(正確には南宋)の時代に編纂された、『大平恵民和剤局方』という当時の国立薬局の処方集が出典となっています。安中の中とは大ざっぱに消化器系を指します。消化器系のつらい症状を安んずる、安和にするということで、胃の痛みをよく治す漢方薬の代表になりました。私も胃もたれタイプは六君子湯を中心に、胃痛タイプには安中散を中心に処方することが多くなっています。桂皮(けいひ)、延胡索(えんごさく)、茴香(ういきょう)などは鎮痛作用に優れ、牡蛎(ぼれい)には胃酸をやわらげる作用もあります。また胃を温める作用も強いため、冷えると胃が痛むといった人には特に向いています。なお胃痛だけでなく月経痛など婦人科系の痛みにもよいと書かれており、婦人科領域でもよく用いられています。

 安中散は飲みやすく胃がすっきりするとおっしゃる患者さんが少なくありません。また六君子湯と比べ比較的早く効く印象があるため、頓服薬として使われることも少なくありません。実は市販薬の○○漢方胃腸薬のほとんどすべてに安中散の成分が入っています。私は以前、難治性の逆流性食道炎の患者さんが「○○漢方胃腸薬を飲むとラクなんですよね」とおっしゃったのをヒントに安中散を処方したところ、その患者さんのむかつきや逆流症状が顕著に改善した経験があります。そういった意味で安中散は、胃痛に悩む方にとって昔から一番身近な漢方薬の一つと言えるかもしれません。