近年外科領域を中心にもっとも頻用されているのが大建中湯で、日本で一番処方される量が多い漢方薬ともいわれています。大建中湯の出典である『金匱要略』の記載によると、腹部が非常に冷えて痛み、腸がむくむく動いてあたかも頭と尾があるかのように見える、そんな様子の時に用いるとされます。すなわち漢方医学的には虚証・寒証の腹痛に対する処方として用いられ、西洋医学的観点からは腸管血流を改善すなわち腸管を温めながら、腸管運動を改善・正常化させる処方と考えられます。昔は回虫や条虫をはじめとした腸管寄生虫症による腹痛などに用いたことが想定されています。しかし『金匱要略』の記載は腹部の外科手術後に起きることがある腸閉塞の症状とよく似ており、実際に腸閉塞の症状改善に有効であったため、今ではほとんどの病院で腹部の術後に大建中湯が用いられるようになりました。その効果は即効的であることも多く、現在では西洋医学的に最も認知された処方のひとつであるといえるでしょう。
大建中湯の構成生薬は御種人参(朝鮮人参)、乾姜(ショウガ)、山椒(サンショウ)、膠飴(水あめ)で、朝鮮人参以外は調味料やスパイスとしてなじみのあるものばかりです。山椒と乾姜は消化管の冷えをとり腹痛を改善させ、御種人参は体力の回復に役立ち、膠飴は腹痛緩和に効果があるとされます。
日本で最もよく使われるだけあって、大建中湯は数ある漢方薬の中でもっとも研究も進んでいます。大建中湯の作用機序については腸管運動の促進作用や腸管の血流を改善させる作用、抗炎症作用などさまざまな研究報告があり、その中には現代医薬では代替できない大建中湯ならではのユニークな作用もあります。また臨床試験データも豊富で、術後腸閉塞を中心に大建中湯の有用性が数多く報告されています。大建中湯はこうした研究の集積にも支えられながら、現代の医療現場になくてはならない漢方薬として大活躍しているのです。
