院長ブログ20 スキンケア:乾燥肌にどの保湿剤がよいか | 新宿区西新宿の皮膚科・内科 | 西新宿サテライトクリニック
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院長ブログ20 スキンケア:乾燥肌にどの保湿剤がよいか

 アトピー性皮膚炎や皮脂欠乏性湿疹などでは、乾燥肌により皮膚が乾燥してカサカサになるので、ステロイド外用薬などの治療薬のほかに皮膚を保湿する外用剤が必要です。どんな保湿剤が良いのか自分の経験をもとに述べてみたいと思います。保湿剤を塗る前に重要なことは、からだを洗い過ぎないことです。現在の日本では毎日洗浄剤を使用して頭髪やからだを洗うことが習慣となっていますが洗い過ぎです。通常は洗浄剤を使わず、シャワーで汗を流すだけで十分です。私達の皮膚が元来持っている皮脂や保湿成分を大事にして、必要に応じて洗浄剤を使うようにしましょう。そうすれば保湿剤の使用量も減らすことができます。

 保湿剤は水分を皮膚に与えて湿度を保つもので、英語ではモイスチャライザーmoisturizerと言います。保湿剤は水溶性と油性の成分を界面活性剤で混ぜ合わせて乳化させたものです。剤形は乳液状から、やや硬めのクリーム状まで多種多様な製品が化粧品会社から販売されています。界面活性剤で乳化されているので白色をしています。保湿成分として、セラミド、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ヘパリン類似物質などが含まれています。保護剤は皮膚を覆って保護して乾燥を防ぐ油剤で、英語ではオクルーシブocclusiveに相当します。色は透明あるいは半透明なので、白色の保湿剤と区別できます。保護剤にはパラフィン、シリコーン、動物皮脂であるラノリンなどがあります。パラフィン(paraffin)は石油petroleumから作られる長鎖の炭化水素の混合物(-CH2-)nで、nが小さく、常温で液状のものを流動パラフィン、常温で固形のものをパラフィンワックス(ろう)と呼び、中間のゲル状の半固形のものを白色ワセリンpetrolatumと呼んでいます。ワセリン(Vaseline)は登録商標のため、白色ワセリン、精製白色ワセリンと呼ばれています。白色ワセリンは安定性が高く、かぶれの原因にもなりにくいので、ステロイド外用薬の基剤や、接触皮膚炎の原因を検索する貼布試験(パッチテスト)の基剤や正常コントロールとしても使用されています。

 一般的には、使用感を重視して、べとつきの少ない乳液やクリームタイプの保湿剤が使われています。患者さんでも、ヘパリン類似物質含有外用薬(ヒルドイド®など)などを希望する人が多いです。使用感が良く、水分が蒸発する時の気化熱でさっぱり感がありますが、油分が少ないので時間が経過すると乾燥します。また、界面活性剤(石ケン成分)を使用しているので機能性成分が皮膚の中に浸透して効果を発揮しやすい利点がありますが、逆に刺激性が増し、感作により接触皮膚炎を起こしやすい欠点があります。正常な皮膚の人や乾燥の程度が軽い人はクリームタイプの保湿剤でもよいと思います。しかし、アトピー性皮膚炎などで乾燥肌がひどい人や、ひっかき傷(掻破痕)が認められる人には、界面活性剤を含まず、乾燥を防ぎ、接触皮膚炎も起こしにくい白色ワセリン(プロペト®、サンホワイト®など)やオイル(椿油、オリーブ油)などの油脂系保護剤の使用をお勧めします。保護剤はべとつきますので、まず手のひらに薄くのばしてから、その手でからだをなでるように広げて使うのがポイントです。乾燥が落ち着くだけでなく、キズもよく治ります。ただし、いつも保護剤がよいというわけではなく、乾燥がほとんどない場合には、べとつかない保湿剤の方が使用感がよいし、夏季に白色ワセリンを使い続ければ、毛孔が閉塞されて、ニキビや毛包炎をおこしやすくなるので注意が必要です。

 日本の保湿剤をめぐる医療事情で、最も気になり問題なのは医薬品に分類されているヘパリン類似物質含有外用薬(先発品:ヒルドイド®)です。保険診療で「皮脂欠乏症」に適応があります。しかし、ヒルドイド®が発売されたのは1954年と古く、臨床試験は十分に実施されていません。唯一の二重盲検比較試験1)は、1987年に112例の老人性乾皮症に対して実施され、上肢片側ずつに塗り分け、担当医師が肉眼的に判定しています。2週間外用後の改善率は基剤81.3%、ヒルドイド®軟膏87.5%でした。しかし、写真撮影による判定はなく、臨床試験の管理もPMDA(医薬品医療機器総合機構)の指導のもとに厳密に実施されたものでもありません。それにも関わらず、日本国内では保険診療を中心にヘパリン類似物質含有外用薬が大量に消費されています。保護作用が弱いので、症状のひどい人が使用すると多量・頻回に外用する必要があり、販売量がさらに増えて製薬会社にとってはうれしい状況となっています。先発品のヒルドイド®ソフト軟膏の薬価は18.5円/g 。gあたりの価格がステロイド外用薬18.9円/gとほほ同額というのは驚きです。保護剤である白色ワセリンは2.4円/gで、ヒルドイド®ソフト軟膏の約1/8ですが、非常に安価で安全、かつ乾燥症状を抑制します。以上述べたように、ヒルドイド®が保険適応の保湿剤として認められる根拠に乏しく、化粧品として一般販売されるのが適切と私は考えます。米国にはヘパリン類似物質を含有する医薬品保湿剤はありません。米国ガイドライン2)では、アトピー性皮膚炎では保湿剤を使用した方が乾燥をやや改善できることが知られているが、特異な配合成分が保湿に優れているというエビデンスはない、と記されています。保湿剤が新生児。乳児のアトピー性皮膚炎の発症を抑制できるかについても否定的な臨床試験結果が多いですが、結論はでていません3)。また、高齢者のスキンケアについても、特異な洗浄剤や保湿剤の使用が健康な皮膚を維持するのに優れているというエビデンスはない4)とされています。大規模臨床試験には多額の開発費が必要なことや、乾燥の程度を客観的に正確に評価することが難しいことなどが関係していると思われます。

文献

1)ヒルドイド研究班. 臨床医薬 4: 1903-1911,1988.

2)Sidbury R, et al: J Am Acad Dermatol 89(1); e1-e20, 2023.

3)Katibi OS, et al: Ann Allergy Asthma Immunol 128: 512-525, 2022.

4)Cowdell F, et al: Hygiene and emollient interventions for maintaining skin integrity in older people in hospital and residential care settings. Cochrane Database of Systematic Reviews 2020. 1 (1): CD011377. doi:10.1002/14651858.CD011377.pub2.

                         2024/9/2 西新宿サテライトクリニック 坪井 良治

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