院長ブログ7 アトピー性皮膚炎の治療比較:デュピルマブ(デュピクセント®)/ JAK阻害薬(2022) | 新宿区西新宿の皮膚科・内科 | 西新宿サテライトクリニック
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院長ブログ7 アトピー性皮膚炎の治療比較:デュピルマブ(デュピクセント®)/ JAK阻害薬(2022)

 2018年にデュピルマブ(デュピクセント®)が日本で発売されてからアトピー性皮膚炎の治療が大きく変わりました。さらに、バリシチニブ(オルミエント®)をはじめとするJAK阻害薬が発売されたことで、高額な医療費はかかりますが、劇的な治療効果が得られる薬剤の選択肢が増えました。これらの薬剤の効果と副作用について、大規模な国際臨床試験の結果をもとに比較検討し、これらの薬剤の使用を考えている患者様に情報提供したいと思います。

アトピー性皮膚炎はからだの特定の部位に頑固な湿疹病変を繰り返す病気です。年齢によっても部位や症状が異なります。アトピー性皮膚炎では薬物治療はもちろん重要ですが、日頃の生活環境を整えることがさらに重要です。ここに紹介する新しい治療法は、生活環境を整え、ステロイド外用薬や保湿剤による一般的な治療を6か月以上行っても中等度以上の重症度のアトピー性皮膚炎の症状が残っている人が対象となります。具体的には、以下のいずれかの症状を満たしている人:

・IGA(Investigator’s Global Assessment)スコア3以上

 (見た目の症状:0=消失, 1= ほぼ消失, 2= 軽症, 3= 中等症, 4=重症)

・EASI(Eczema Area andSeverity Index)スコア16以上

 (定量性はあるが素人評価は難しい: 0=皮疹なし~ 72= 皮疹最重症)

 EASI 75 とは、治療前後でEASIが75%以上改善した人の割合

・体表面積に占める病変の割合が10%以上(片方の手のひら全体で1%です。全身の赤い部分を合計して10枚取れれば10%)

アトピー性皮膚炎に対する新しい全身治療薬のうち、日本で現在使用できる薬剤は以下の通りです。皮下注射薬にはデュピルマブ(デュピクセント®)とネモリズマブ(ミチーガ®)、トラロキヌマブ(アドトラーザ®)が、JAK阻害薬の内服にはバリシチニブ(オルミエント®)、ウパダシチニブ(リンヴォック®)、アブロシチニブ(サイバインコ®)の3種類があります。当院としては、効果が高く副作用も少ないデュピクセント®の隔週皮下注射を第1にお勧めします。自己注射により3か月に1回の受診が可能です。デュピクセント®の効果が不十分な人や注射が苦手な人にはJAK阻害薬、特にリンヴォック®15mg/日の内服をお勧めします。具体的に説明します。

デュピルマブ(デュピクセント®)はIL-4/IL-13 受容体に対するモノクローナル抗体です。Th2(type2 helper T cell)のサイトカインであるIL-4/IL-13が関係したシグナル伝達を抑制することで痒みや炎症を抑えます。Th2は抗体産生やアレルギーに関与しています。デュピクセント®はアトピー性皮膚炎だけでなく、気管支喘息、慢性副鼻腔炎にも適応があります。デュピルマブの第3相臨床試験は2016年に発表されています。同時に行われた2つの試験1)では、300mgを隔週に皮下注射し、16週間後のEASI 75達成率は55%/44%でした。主な副作用は注射部位反応と結膜炎でした。ネモリズマブ(ミチーガ®)は痒みに関係したIL-31 受容体に対するモノクローナル抗体です。局所外用薬を併用した臨床試験2)では、60mgを4週間間隔で皮下注射し、16週間後のEASI 75達成率は26%でした。主な副作用は注射部位反応でした。トラロキヌマブ(アドトラーザ®)はIL-13に対するモノクローナル抗体です。同時に行われた2つの試験3)では、300mgを隔週に皮下注射し、16週間後のEASI 75達成率は25%/33%でした。主な副作用は上気道感染症と結膜炎でした。

いっぽう、JAK(Janus kinase)はJAK-STAT系と呼ばれる細胞内シグナル伝達経路を活性化する酵素で、炎症応答、造血、感染免疫や腫瘍免疫など幅広い分野に関係しています。そのため、JAKの活性を抑制するとアトピー性皮膚炎に関係した炎症経路だけでなく、Th1タイプの情報経路の一部も抑制します。つまり、関節リウマチや膠原病、円形脱毛症などの自己免疫疾患にも有効ですが、いろいろな副作用を生じる可能性もあります。JAK阻害薬で最初に開発されたのはバリシチニブ(オルミエント®)です。オルミエント®は2017年に関節リウマチを対象に発売され、2020年にアトピー性皮膚炎に適応が拡大されました。同時に行われた2つの試験4)では、バリシチニブ4mg/日を毎日内服し、16週間後のEASI 75達成率は25%/21%でした。主な副作用は鼻咽頭炎、CPK値上昇、頭痛でした。ウパダシチニブ(リンヴォック®)は2020年に関節リウマチを対象に発売され、2021年にアトピー性皮膚炎に適応が拡大されました。同時に行われた2つの試験5)では、ウパダシチニブ30mg/日あるいは15mg/日を毎日内服し、16週間後のEASI 75達成率はそれぞれ80%/73%、70%/60%でした。主な副作用はざ瘡、上気道感染症、鼻咽頭炎、頭痛、CPK値上昇などで、用量依存性が認められました。アブロシチニブ(サイバインコ®)は2021年にアトピー性皮膚炎を対象に発売されました。まだ、発売されて1年しか経過しておらず、適応症もアトピー性皮膚炎だけです。臨床試験6)では、アブロシチニブ200mg/日あるいは100mg/日を毎日内服し、12週間後のEASI 75達成率はそれぞれ63%/40%でした。主な副作用は吐き気、鼻咽頭炎、頭痛、上気道感染症でした。これらの薬剤のうち、効果と副作用を同一試験で直接比較した臨床試験がいくつかあります。ウパダシチニブとデュピルマブを比較した試験7)では、16週間後のEASI 75比較で、ウパダシチニブ30mg内服が71%、デュピルマブ300mg隔週注射が61%で、両者には統計学的有意差(p=0.006)が認められました。副作用はウパダシチニブがざ瘡、CPK値上昇、上気道感染症、鼻咽頭炎、頭痛などで、デュピルマブは注射部位反応と結膜炎でした。アブロシチニブとデュピルマブを比較した試験8)ではステロイド外用薬が併用されていますが、16週間後のEASI 75比較で、アブロシチニブ200mg内服が71%、デュピルマブ300mg隔週注射が66%で、両群間には統計学的有意差はありませんでした。副作用はアブロシチニブが吐き気、ざ瘡、鼻咽頭炎、頭痛、上気道感染症などで、デュピルマブは結膜炎でした。以上紹介した試験を含めて、これまで20以上の大規模な臨床試験が行われましたが、直接比較した試験はわずかです。そこで、network meta-analysisという方法を用いて、これまで個々に報告された臨床試験結果を比較して、薬剤の相対的な有効性を推定した論文がいくつか報告されています。ある論文9)では、EASIを治療評価指標としてデュピルマブを標準薬として比較した場合、ウパダシチニブ30mg、アブロシチニブ200mgがデュピルマブより効果が高く、ウパダシチニブ15mgが同等で、アブロシチニブ100mg、バリシチニブ4mgが劣ることを推定しています。

ここからは私の考えも含めて記述します。以上の結果から治療効果を予測すると、ウパダシチニブ30mg>アブロシチニブ200mg>デュピルマブ300mg=ウパダシチニブ15mg>アブロシチニブ100mg>バリシチニブ4mgとなります。さらに、薬剤の使用にあたっては効果以上に副作用の種類と程度が重要です。すでに述べたようにデュピルマブはTh2系のアレルギーを抑制しますが、Th1系の感染免疫や腫瘍免疫を抑制しません。したがって、血球系や感染に関する血液検査も頻回に行う必要がありません。いっぽう、JAKにはJAK1、JAK2、JAK3、TYK2の4種類があり、JAK阻害剤がどの酵素の活性を抑制するかによって特徴が異なります。しかし、その特異性は絶対的なものではなく、濃度が高くなるといろいろな副作用が出やすくなります。関節リウマチの分野では肺炎などの重篤な感染症、血球系細胞の減少、肝機能障害、脂質代謝異常、心血管系事象、静脈血栓塞栓症、悪性腫瘍などが知られています。幸い、アトピー性皮膚炎と円形脱毛症を対象とした皮膚科分野の症例では重篤な副作用は報告されていません。おそらく基礎疾患を持っている人が少ないこと、若い人が多いことが関係していると思われます。JAK阻害薬は用量が増えると効果が高くなりますが、副作用も多く重症になる傾向があります。以上の効果と副作用を勘案すると、デュピルマブの推奨度が高く、続いてJAK阻害薬、その中ではウパダシチニブ15mg/日の内服をお勧めします。  自分にどの薬剤が最も適合しているかを決める際に役立つ情報を述べます。基本的にはデュピクセント®が第1選択薬です。特に65歳以上の高齢者の人、基礎疾患のある人は副作用の点からデュピクセント®しかないと思います。デュピクセント®で効果不十分な人、結膜炎の副作用がひどい人、顔面の紅斑が消えない人はリンヴォック®15mg/日内服に変更し、それでも効果が十分でない人は一時的に30mg/日に上げることもできると思います。サイバインコ®100mg/日も可能ですが、使用された症例数がまだ少ない、吐き気、頭痛などの副作用が多い点が挙げられます。オルミエント®は症状の軽い人に向いています。さらに減量も可能です。注射が嫌いな人、一時的な効果を期待する人、長く続けられない性格の人はJAK阻害薬の方が適していると思います。ただし、定期的な血液検査が必要です。JAK阻害薬は速効性で、週単位で症状が改善します。また、中止後に再開すれば効果が回復します。デュピクセント®は月単位で改善するイメージで、自己注射をずっと続けられる人が向いています。中断、再開を繰り返すと抗体の産生などにより効果が減弱する可能性があります。治療費は血液検査代金も含め、デュピクセント®の方がやや安いです。治療費を割安にするために付加給付制度、高額療養費制度、医療費控除の制度を利用することができる場合があります。


1)N Engl J Med 375: 2335-48, 2016.

2)Br J Dermatol 186: 642-51,2022.

3)Br J Dermatol 184: 437-49,2021.

4)Br J Dermatol 183: 242-55, 2020.  

5)Lancet 397:2151-68, 2021.

6)Lancet 396:255-66, 2020.

7)JAMA Dermatol 157: 1047-55, 2021.

8)N Engl J Med 384: 1101-12, 2021.

9)JAMA Dermatol 158: 523-32, 2022.

                            西新宿サテライトクリニック 坪井 良治
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