院長ブログ8  JAK阻害薬による円形脱毛症の治療:現況と展望(2022) | 新宿区西新宿の皮膚科・内科 | 西新宿サテライトクリニック
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院長ブログ8  JAK阻害薬による円形脱毛症の治療:現況と展望(2022)

 バリシチニブ(オルミエント®)が円形脱毛症に適応拡大になって半年が経過しました。内服して3~6か月すると、反応している人とそうでない人で効果がはっきり分かれてきました。順調に発毛が見られる人が多いですが、反応が悪く内服継続を躊躇している人も出てきました。幸い副作用については、当院も含め私が知る限りでは重篤な副作用は出ていないようです。すでに臨床試験で報告されているように、ざ瘡、ヘルペス、鼻咽頭炎など、血液検査ではCPK値上昇、コレステロール値上昇などが認められます。6か月を経過して反応の良い人は、そのまま1年後まで頭髪が伸長し続けることが報告されていますので、内服継続です。ただし、効果が十分出ていても、経過中に再度脱毛が進行する症例も報告されていますので注意が必要です。6か月を経過して反応が悪い人は内服中止。問題は反応が不十分な人がどうするかです。現在治療が進行中で、世界中のだれも正解を得ていません。オルミエント®の増量内服は認められていません。局所療法との併用や薬剤の変更などが考えられます。来年夏頃に、もう一つのJAK阻害薬リトレシチニブritlecitinib が発売される可能性が高いので、それまで待つという選択肢も考えられます。リトレシチニブの臨床データも含め円形脱毛症に対する新しい全身治療薬の開発動向を報告します。

 すでにブログ4に書いたように、JAK1、JAK2を抑制するバリシチニブ(オルミエント®)の円形脱毛症に対する2つの第3相国際臨床試験の結果1)は以下の通りです。脱毛面積50%(SALT50)以上の合計1200名(平均脱毛面積85%)が参加し、バリシチニブ4mgを36週間内服した時、39%(第2試験36%)の人が脱毛面積20%以下(SALT20:ウイッグをつけなくてもなんとか隠せるレベル)になりました。途中の24週間後のSALT20達成率は約28%/30%でした。主な副作用はニキビ、ヘルペスなどの感染症やクレアチンキナーゼやコレステロールなどの血液検査値の上昇でした。

 いっぽう、リトレシチニブはJAK3、TECを抑制するJAK阻害薬です。第3相国際臨床試験の結果は論文としてはまだ発表されていませんが2)、脱毛面積50%(SALT50)以上の合計718名が参加し、リトレシチニブ200mgを4週間内服したのち50mgあるいは30mgを毎日20週間内服してプラセボと脱毛面積を比較しました。脱毛面積20%以下(SALT20)の達成率は24週間後に50mgは31% 、30mg は22%でした。主な副作用は鼻咽頭炎、上気道感染症、頭痛、ざ瘡、下痢、吐き気でした。さらに欧米で開発中の薬剤がルキソリチニブ(ジャカビ®)の類似薬であるdeuruxolitinibです。JAK1、JAK2を抑制します。米国のFDAには申請されますが、日本では臨床試験が行われていないため、導入されるとしてもかなり先になると思われます。2つの第3相国際臨床試験の結果は論文としてはまだ発表されていませんが3)、脱毛面積50%(SALT50)以上の合計1223名(平均脱毛面積約87%)が参加しました。deuruxolitinib 8mgあるいは12mgを1日2回24週間内服した時の脱毛面積20%以下(SALT20)の達成率は、12mgは42%/38% 、8mg は30%/33%でした。主な副作用は頭痛、ざ瘡、上気道感染症、クレアチンキナーゼ値上昇、鼻咽頭炎でした。

 その他のJAK阻害薬で過去に円形脱毛症に対して使用されたことがある薬剤は以下の通りです。TYK2とJAK1を抑制するbrepocitinibは円形脱毛症でなく膠原病を対象に治験が進められています。ルキソリチニブ(ジャカビ®)は骨髄線維症、真性多血症に適応があります。トファシチニブ(ゼルヤンツ®)は関節リウマチ、潰瘍性大腸炎に適応があります。いずれの薬剤も円形脱毛症を対象にして臨床試験が今後実施されることはなさそうです。

 JAK阻害薬以外で過去に円形脱毛症に対して使用されたことがある薬剤2)は以下の通りです。乾癬治療薬のアプレミラスト(オテズラ®)とセクキヌマブ(コセンティクス®)。国内販売はありませんが、IL-2で、抗がん剤として使用されているアルデスロイキン(プロリュウキン®)。いずれの薬剤も芳しい治療結果を残していません。唯一、アトピー性皮膚炎治療薬であるデュピルマブ(デュピクセント®)では散発的に有効例が報告されています。脱毛面積30%(SALT30)以上の60名が参加した第2a相臨床試験4)では、デュピルマブ300mg/週を皮下注射して24週間後のSALTの50%改善率が10% でした。IgEが高い人の方がより有効でした。比較的安全な薬剤であり、IgEが高くアトピー性皮膚炎の症状が重症の人は試してみる価値はあると思います。しかし、paradoxical reaction と言って逆に脱毛が進行してしまう症例もあるので注意が必要です。 

 以上の報告から、円形脱毛症に対する全身治療薬はJAK阻害薬が引き続き中心になりそうです。円形脱毛症のマウスモデルでは円形脱毛症の回復にはJAK1あるいはJAK3が必要と考えられています5)。そういう意味ではバリシチニブ(オルミエント®)とリトレシチニブの円形脱毛症への適応は理にかなっています。ブログ7にすでに書きましたが、アトピー性皮膚炎に有効なJAK阻害薬の臨床試験では、炎症スコア(EASI75)を指標にして治療効果を予測すると、ウパダシチニブ30mg>アブロシチニブ200mg>デュピルマブ300mg=ウパダシチニブ15mg>アブロシチニブ100mg>バリシチニブ4mgの順序でした。アトピー性皮膚炎は基本的にTh2タイプの疾患であり、その結果からTh1タイプの円形脱毛症に対する治療効果を予測することは正しくありませんが、いずれの薬剤もJAK1を抑制することから円形脱毛症への有効性も推測されます。円形脱毛症患者の4割はアトピー性皮膚炎を合併しますので、中等度以上のアトピー性皮膚炎を合併している円形脱毛症の患者様は、これらの薬剤を活用することができます。バリシチニブ(オルミエント®)はアトピー性皮膚炎に対しては比較的弱い効果であり、円形脱毛症に対して効果が不十分な場合には、ウパダシチニブ(リンヴォック®)やアブロシチニブ(サイバインコ®)への変更も考慮されます。また、ケナコルト注射や局所免疫療法との併用も考えらえます。逆に十分な効果が得られた人はオルミエント®4mg錠から 2mg錠に減量することも考えられます。医療費が高すぎると思っておられる人は、オルミエント®が関節リウマチ領域で発売されて、すでに5年を経過していますので、あと5年間待って後発医薬品が市場に出てくるのを待つという方法もあります。学童児でオルミエント®の内服を希望されている保護者の方もいらっしゃると思います。現在15歳以上とされている年齢制限は今後緩和される可能性が高いです。後発医薬品が出るまで5年間待つのも選択肢です。 

 

1) N Engl J Med 2022; 386: 1687-1699.

2) J Eur Acad Dermatol Venereol. 2022 Dec 7. doi: 10.1111/jdv.18810.

3) CoNCERT Pharmaceuticals Inc HPより

4) Allergy 2022; 77: 897-906.

5) JCI Insight 2021; 6: e142205.


                            西新宿サテライトクリニック 坪井 良治
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