2018年4月にデュピルマブ(デュピクセント®)が日本で発売されて8年近くになりますが、その優れた効果と安全性から重症アトピー性皮膚炎の治療が劇的に変わりました。皮膚アレルギー分野では、抗ヒスタミン薬やステロイド外用薬に匹敵する発見・発明と考えます。「院長ブログ12 デュピクセント®による治療実績」を書いてから約1年が経過しましたので、この1年間の実績を上積みして最新情報を提供するとともに、デュピクセント®をそろそろ終了したいと考えている患者様に出口戦略について情報提供したいと思います。
2022年7月から2026年1月までの3年半の間に、アトピー性皮膚炎と結節性痒疹を対象に、当院でデュピルマブの注射を受けた人は135人でした(添付表)。治療開始の前提条件は、EASIスコア16以上(外用治療しても全身に紅斑丘疹が広がり、ひっかき傷が目立つイメージ)のアトピー性皮膚炎です。男女比は男性が3倍でした。そのうち、当院を含め連続して16週間以上経過観察できた108人について有効性を解析しました。受診歴4か月未満の人は解析に含まれていません。結節性痒疹は痒疹個数、あるいはEASIに換算して評価しました。投与前の平均EASIスコアは25.7で、国際臨床試験の中央値、約30より、やや軽い重症度と考えられました。

解析の結果、EASI 75 達成率(皮膚症状の程度が治療前の1/4になった人の割合)は 95.4%(103人/108人でした。このうち副作用中止の4人とコンプライアンス不良(注射間隔が長く不規則)の5人を除くと、100% %(99人/99人)でした。EASI 90 達成率は副作用中止とコンプライアンス不良を除くと 86.9%(86人/99人)でした。さらに、1年以上治療した人のEASI 90 達成率は、副作用中止とコンプライアンス不良を除くと 98.6%(69人/70人)、EASI 95達成率は78.6%(55人/70人) でした。全体的な薬剤の印象としては、重症度にかかわらず効果が安定しており、効果は投与期間に比例して高まり、コンプライアンスが悪い人を除いて経過中に悪化する割合が少ない。治療期間が1年を越えると、さらに症状は安定し、痒みもなくなります。最初の6か月間に顔面頚部の紅斑が目立った人も、治療期間が2年を経過すると落ち着く印象です。
デュピルマブの有効性について、二重盲検で実施された国際試験はいくつかありますが、単剤で実施された2つの試験の16週後のEASI 75 達成率は51%/44%でした1)。ステロイド外用薬を併用した試験の16週後のEASI 75 達成率は69%でした2)。これらの国際臨床試験の結果に比較して、当院における治療結果がはるかに優れている理由には2つあると考えています。第1の理由は、当院の観察期間が平均16.7か月と、国際試験の4か月に比較して4倍長いこと。第2の理由は、患者全員に、症状が良くなっても抗ヒスタミン薬の内服と白色ワセリン外用の継続、紅斑や痒みが少しでもある時はステロイドなどの外用薬の継続をお願いしているためと考えます。注射薬だけでは、痒みのない皮膚を維持できませんし、最終的にデュピルマブからの離脱も困難です。
投与期間中に認められた副作用は添付表の通り21人でした。副作用は、2回以上の受診歴がある125人から収集しました。結膜炎は8名に認められましたが、いずれの症例も点眼薬などの使用で軽快し、投与中止に至った症例はありませんでした。副作用中止は4例あり、3例は「免疫シフト」とも言える副作用でした。いずれの症状も薬剤の中止で、症状は消失しました。アトピー性皮膚炎を対象にしたデュピクセント®市販直後調査3)によれば半年間で316例 410 件の副作用が報告されています。頻度の高い副作用は結膜炎、注射部位疼痛、倦怠感などでした。重篤な副作用としては、注射初回時にアナフィラキシー反応が2例報告されています。ワクチン注射などと同様に、注射後には医療機関でしばらく安静にすることが必要です。当院と同じような関節痛が5件、乾癬様皮疹が1例報告されています。免疫に関与するヘルパーT細胞(Th) は、機能的にTh1、 Th2、Th17などに分類されます。Th1は感染免疫、腫瘍免疫、自己免疫などに関与し、Th2はアレルギーに、Th17は乾癬に関与することが報告されています。デュピルマブはTh2の機能を幅広く抑制します。ここからは推論ですが、Th2の機能を強く抑制すると、相補的にTh1やTh17などの機能が過剰になる可能性が考えられます。乾癬様皮疹や多関節痛(炎)はTh17の機能が過剰になったと考えられますし、複雑な症状を示した症例も類似の「免疫シフト」によるものではないかと推測しています。当院での治療歴はありませんが、治療中に円形脱毛症が悪化した症例を3人経験しています。これも同様な機序によるものと推測しています。
デュピルマブ(デュピクセント®)はIL-4受容体αサブユニットに結合するモノクローナル抗体で、IL-4およびIL-13のシグナル伝達を阻害することでTh2の機能を幅広く抑制します。デュピルマブの発売以降に、痒みに関係したIL-31 受容体に対するモノクローナル抗体、ネモリズマブ(ミチーガ®)が、さらに、IL-13に対するモノクローナル抗体、トラロキヌマブ(アドトラーザ®)とレブリキズマブ(イブグリース®)が発売されていますが、効果はデュピルマブを越えていません。ピンポイントで作用する後発の薬剤の方が、同等あるいは有効性が高く副作用が少ないのが通常ですが、それがあてはまらないようです。つまり、IL-4を含め広汎にTh2作用を抑制する薬剤の方が効果が高く、副作用はTh2関連だけなので重症にならないということなのでしょう。現在も、いくつかの薬剤が新規に開発中ですので、3年以内にさらに画期的な薬剤が登場する可能性はあります。アトピー性皮膚炎に対する抗体医薬とJAK阻害薬の特徴については院長ブログ7 「 アトピー性皮膚炎の治療比較:デュピルマブ(デュピクセント®)/ JAK阻害薬(2022)」を、治療費についてはブログ22「デュピクセント®とイブグリース®が値下げ」を参照してください。
ここからは2026年初めの段階で、中等症・重症のアトピー性皮膚炎の人は、どの薬剤を選択するのがベストなのか、個人的な考えを述べます。なお、私はどの製薬会社とも利益相反がなく、中立的な立場と思っています。結論としては、有効性、安全性の両面からデュピルマブの隔週皮下注射を強く推奨します。さらに、より良い治療結果を得るためには、2週間に1回の自己注射を1年間以上、欠かさず継続すること、補助療法として、抗ヒスタミン薬の内服と外用薬、白色ワセリンを継続して併用することが必須条件です。注射がどうしても嫌いな人、デュピルマブの副作用で継続できない人はJAK阻害薬のウパダシチニブ(リンヴォック®)15mg/日の内服をお勧めします。ステロイド(プレドニン®、リンデロン®、セレスタミン®など)を長期に内服している人や、1か月に100g程度のステロイド外用薬が必要な人は、長期的にみると副作用が蓄積して皮膚の萎縮や血管拡張、糖尿病、高血圧、骨粗鬆症などをきたしやすいので早めの転換をお勧めします。
最後に、デュピクセント®の出口戦略、治療を終了して離脱する方法について考えてみたいと思います(院長ブログ32)。治療開始時のEASIスコアが16~20くらいの中等症の人は早めに症状が落ち着きます。また、結節性痒疹もデュピルマブが良く効くので早めの離脱が可能です。しかし、治療開始時のEASIスコアが高い人(重症)や、顔面頚部の皮疹がひどい人は、症状が落ち着くのに時間がかかります。少なくとも1年間、できれば2年間の隔週注射が必要です。最終的にEASIが0~1程度になれば、注射間隔を3週間に1回に、さらに1か月に1回に広げて痒みが悪化しないことを確認します。その後も抗ヒスタミン薬の内服と外用薬、白色ワセリンを継続することで離脱を維持することができます(院長ブログ32)。
文献
1)N Engl J Med 375: 2335-48, 2016.
2)Lancet 389:2287-303, 2017.
3)サノフィ株式会社資料(PV.DMB.RMP.18.122)
2026/02/16 西新宿サテライトクリニック 坪井 良治
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