院長ブログ12 デュピルマブ(デュピクセント®)によるアトピー性皮膚炎の治療実績 | 新宿区西新宿の皮膚科・内科 | 西新宿サテライトクリニック
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院長ブログ12 デュピルマブ(デュピクセント®)によるアトピー性皮膚炎の治療実績

2018年4月にデュピルマブ(デュピクセント®)が日本で発売されて6年近くになりますが、その優れた効果と安全性から重症アトピー性皮膚炎の治療が劇的に変わりました。また、院長ブログ7 「 アトピー性皮膚炎の治療比較:デュピルマブ(デュピクセント®)/ JAK阻害薬(2022)」を書いてからも約1年が経過しました。そこで今回は、当院(西新宿サテライトクリニック)でデュピルマブによる治療を受けておられる患者様の治療実績について報告したいと思います。
2022年7月から2023年12月までにデュピルマブの注射を受けた人は48名でした(添付資料)。治療開始の前提条件は、EASIスコア16以上の中等度以上のアトピー性皮膚炎です。男女比は男性が2倍で、小児は1名だけでした。そのうち、当院が初診扱いで16週以上経過観察できた27人と、他院初診で通算16週以上経過観察できた6人の合計33名について解析しました。投与前の平均EASIスコアは31.0で、国際臨床試験の中央値、約30%とほぼ同じで、背景となる重症度はほぼ同等と考えられました。


解析の結果、EASI 75 達成率は 87.9%(皮膚症状の程度が治療前の1/4になる人の割合:生活は楽だが、外用薬が時々必要)、EASI 90 達成率は 48.5%(皮膚症状の程度が治療前の1/10になる人の割合:快適に生活できる)でした(添付資料)。有効性が非常に高く、EASI 75 を達成できなかったのは4名だけで、うち2名は投与4か月後の評価で、今後さらに効果が高まることが期待されました。反応が悪かった2名は50%前後の改善で、比較的年齢が高い重症患者様で、肥満傾向もあり、用量が十分でない可能性も残ります。全体的な薬剤の印象としては、重症度にかかわらず効果が安定しており、効果は投与期間に応じて高まり、経過途中で悪化する人の割合が少ない。デュピルマブの有効性について、二重盲検で実施された国際試験はいくつかありますが、単剤で実施された2つの試験の16週後のEASI 75 達成率は51%/44%でした1)。ステロイド外用薬を併用した試験の16週後のEASI 75 達成率は69%でした2)。当院における治療は原則ステロイド外用薬を併用しており、評価期間も16週間より長いので、このように優れた結果が得られたものと考えます。 
投与期間中に認められた副作用は添付資料の通り5名でした。投与した全員48人を対象にしています。結膜炎は2名に認められ、1名は自然軽快、1名は眼科の治療により軽快し、デュピルマブの治療を継続中です。ほかの3例は「免疫シフト」とも言えるまれな副作用でした。乾癬様皮疹を生じた症例は投与初期であったので中止してステロイド外用薬治療に切り替えました。最後の2例は、自己中止と再開による症状再燃に因果関係があり、継続投与を中止しましたが、アトピー性皮膚炎の症状は今のところ落ち着いています。
免疫に関与するヘルパーT細胞(Th) は、機能的にTh1、 Th2、Th17などに分類されます。Th1は感染免疫、腫瘍免疫、自己免疫などに関与し、 Th2はアレルギーに、Th17は乾癬に関与することが報告されています。デュピルマブはTh2の機能を幅広く抑制します。ここからは推論ですが、Th2の機能を強く抑制すると、相補的にTh1やTh17などの機能が過剰になる可能性が考えられます。乾癬様皮疹や多関節痛(炎)はTh17の機能が過剰になったと考えられますし、複雑な症状を示した最後の症例も類似の「免疫シフト」によるものではないかと推測しています。アトピー性皮膚炎を対象にしたデュピクセント®市販直後調査3)によれば半年間で316例 410 件の副作用が報告されています。頻度の高い副作用は結膜炎、注射部位疼痛、倦怠感などでした。重篤な副作用としては、注射初回時にアナフィラキシー反応が2例報告されています。ワクチン注射などと同様に、注射後には医療機関でしばらく安静にすることが必要です。当院と同じような関節痛が5件、乾癬様皮疹が1例報告されています。
ここからは2024年初めの段階で、中等症・重症のアトピー性皮膚炎の患者様は、どの薬剤を選択するのがベストなのか、個人的な考えを述べます。なお、私は当該薬剤を販売するどの製薬会社とも利益相反がなく、中立的な立場です。結論としては、有効性、安全性の両面からデュピルマブの隔週皮下注射を強く推奨します。自己注射が可能で、3か月に1回の受診で済みます。痒みの一時的な軽減、注射がどうしても嫌いな人はJAK阻害薬のウパダシチニブ(リンヴォック®)15mg/日の内服をお勧めします。
抗体医薬とJAK阻害薬は高価な薬剤ですが、各種医療費助成制度を利用することで減額することが可能です。デュピクセント®には10年後以降に後発医薬品(バイオシミラー)が登場する可能性がありますが、抗体医薬は作製するのに技術とお金がかかるため、価格がそれほど安くならない可能性や発売が遅れる可能性があります。したがって、痒みと皮膚症状が強い人はバイオシミラーの登場を待つより、いま治療を始めた方がよいと思います。特にステロイド(プレドニン®、セレスタミン®など)を長期に内服している人や、1か月に100g程度のステロイド外用薬が必要な人は、長期的にみると副作用が蓄積して皮膚の萎縮や、糖尿病、高血圧、骨粗鬆症などをきたしやすくなるので早めの転換をお勧めします。
デュピルマブ(デュピクセント®)はIL-4受容体αサブユニットに結合するモノクローナル抗体で、IL-4およびIL-13のシグナル伝達を阻害することでTh2の機能を幅広く抑制します。デュピルマブの発売以降に、痒みに関係したIL-31 受容体に対するモノクローナル抗体、ネモリズマブ(ミチーガ®)が、さらに、IL-13に対するモノクローナル抗体、トラロキヌマブ(アドトラーザ®)が発売されていますが、効果はデュピルマブを越えていません。ピンポイントで作用する後発の薬剤の方が、同等あるいは有効性が高く副作用が少ないのが通常ですが、それがあてはまらないようです。つまり、広汎にTh2作用を抑制する薬剤の方が効果が高く、副作用はTh2関連だけなので重症にならないということなのでしょう。現在もいくつかの薬剤が新規に開発中ですので、3年以内にさらに画期的な薬剤が登場する可能性はあります。
アトピー性皮膚炎に対するもうひとつの新しい全身治療薬はJAK阻害薬です。該当する薬剤はバリシチニブ(オルミエント®)、ウパダシチニブ(リンヴォック®)、アブロシチニブ(サイバインコ®)の3種類です。作用点は異なりますが、いずれも類似の作用機序で作働しており、作用・副作用とも用量に依存します。アトピー性皮膚炎に関係したシグナルも抑制しますが、主たる作用はTh1タイプの情報経路の抑制と考えられます。1年半実際に使用してみた私の印象は今ひとつです。確かに速効性があり、日単位で痒みは軽減しますが、経過観察していると効果に波があり、最初は良くても、中途で悪化する人をよく経験します。JAK阻害薬はやはりTh1タイプの自己免疫疾患に使用して初めて良さが出る薬剤ではないかと思います。
それぞれの薬剤の特徴と国際臨床試験の結果については院長ブログ7 「 アトピー性皮膚炎の治療比較:デュピルマブ(デュピクセント®)/ JAK阻害薬(2022)」を参照してください。



文献

 1)N Engl J Med 375: 2335-48, 2016.

 2)Lancet 389:2287-303, 2017.

 3)サノフィ株式会社資料(PV.DMB.RMP.18.122)

                         2024/01/05 西新宿サテライトクリニック 坪井 良治

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