婦人科3大処方の最後は加味逍遙散です。宋代の『大平恵民和剤局方』を出典とする逍遙散という処方をベースに、明代の名医薛己(せつき)が牡丹皮、山梔子という体の熱を冷ます2種類の生薬を加えて創製したと言われています。逍遙はさまようとか散歩するという意味の言葉ですが、当時は結核など慢性疾患を患う患者さんが体力が落ちて様々な症状を訴えるときに用いたことから、訴えがあちこちに移ろう様子を逍遙と表現したと考えられています。そこから発展して更年期障害に伴って様々に移ろうつらい症状を改善するため応用されるようになり、現代では更年期障害の定番薬となるまでになりました。
加味逍遙散は基本的に、漢方医学でいう気血水のトラブルに幅広く対応できる漢方薬です。柴胡・薄荷には気の流れを良くする作用、当帰・芍薬には血を補う作用、白朮・茯苓には胃腸などの水分バランスを整える作用、白朮・茯苓・甘草・生姜には胃腸機能を高める作用、そして牡丹皮・山梔子には体の熱やほてりを冷ます作用があるといった具合です。ただその中でも、気の流れを良くする気鬱や気逆に対する作用と体の熱を取る清熱作用に加味逍遙散の大きな特徴があり、これらの作用が訳もなくストレスを感じてイライラしたり落ち込んだり、またホットフラッシュで強いのぼせやほてりを自覚したりする更年期障害の症状を改善するためにぴったりなのです。
このように婦人科3大処方をご紹介してきましたが、それぞれ漢方医学的には守備範囲が異なっています。桂枝茯苓丸は慢性疼痛など瘀血を中心に対応しやや体格の良い実証向け、当帰芍薬散は貧血や冷え・むくみなど血虚・水滞に対応しやや虚証向け、そして加味逍遙散は中間証を中心に幅広く使え、メンタルな訴えなど気鬱・気逆に対する強みがあるといったイメージです。婦人科疾患の幅広い症状に3大処方をうまく使い分けることで、多くの患者さんの生活の質を大きく向上させることが期待できます。
