高血圧症Hypertension
高血圧症は我が国に推定4300万人の患者がいると考えられています。高血圧症はどうして治療が必要なのかというと、高血圧症は疾患のなかで一番強い動脈硬化促進因子だからです。つまり、脳卒中や心筋梗塞の原因として重要だからです。動脈硬化促進因子には他に糖尿病、脂質異常症、喫煙などがあります。
高血圧症には特定の原因による約1割の二次性高血圧と、特定の原因のない本態性高血圧があります。二次性高血圧には原発性アルドステロン症、褐色細胞腫、腎血管性高血圧症、甲状腺機能亢進症、睡眠時無呼吸症候群などの疾患のほか、薬剤性(NSAIDs、ピル、漢方薬の甘草など)があります。二次性高血圧が疑われる場合は、まずその検査を行います。
一方、ほとんどの高血圧症は本態性高血圧です。
高血圧症の定義は上の血圧(収縮期血圧)が140mmHg以上、あるいは下の血圧(拡張期血圧)が90mmHg以上とされますが、これは診察室での測定の場合です。家で測定する家庭血圧の場合は5mmHg低く、収縮期血圧は135mmHg以上、拡張期血圧は85mmHg以上となります。そして、診察室では高くないのに家庭血圧が高い場合を“仮面高血圧”と呼びます。仮面高血圧は高血圧ですので治療対象となります。 治療については血圧の値だけではなく、その他の動脈硬化促進因子や高血圧による臓器障害を考慮し、リスクの層別化を行います。そして高リスクであれば、すぐに内服治療を開始します。高リスクでなければ、まずは生活習慣の改善から試みます。
降圧薬による治療が開始となっても、生活習慣の改善を継続することは重要です。
降圧薬には特定の薬剤を使用するべき場合もありますが、多くの場合はARB(アンジオテンシン受容体拮抗薬)、ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)、Ca拮抗薬、降圧利尿薬を単剤、あるいは併用してコントロールしていきます。
「高血圧治療ガイドライン2019」より
血圧が高いと良くない理由
高血圧はこれといった症状は特にありません。しかし、上の血圧が140、あるいは下の血圧が90を超えると高血圧と言われて介入が始まります。その理由は高血圧がひとにとって最大の動脈硬化の危険因子だからです。動脈硬化が進行すると誰もが知っている脳卒中(脳梗塞と脳出血)や心筋梗塞が起こります。
下図は古いデータではありますが、日本人の血圧の値別にみた年間の脳卒中発症率です。1年間に1,000人あたりの脳卒中発症率を表わしたグラフです。血圧が高いほど脳卒中が多く発生する事実が読み取れます。だから高血圧は治療して血圧を下げる必要があるわけです。統計学的には、血圧が120/80未満の人よりも脳卒中の発症率が高くなるのは140/90以上です。なので140/90以上を高血圧症と呼ぶのです。
わが国における2019年の脳心血管疾患死亡数(脳出血、脳梗塞、心筋梗塞など)への寄与率を見ても高血圧がダントツに寄与率が高いのがわかります(下図)。
「血圧の薬は一度、飲み始めると一生飲まなければならないので嫌だ」という声を今でも耳にしますが、血圧を下げないで命を掛けるのは賢明ではありません。
高血圧を放置することが如何に問題なのかがお分かりいただけたと思います。しかし、高血圧にもかかわらず、内服していない人が相変わらず多くいます。
下図は我が国の高血圧症の治療者、および管理不良者などのグラフです。高血圧であると知っていて未治療な人が450万人、高血圧であることを知らずに未治療な人が1400万人もいると推計されています。高血圧は治す病気ではなくコントロールする疾患です。健診等で高血圧が気になった人は放置することなく、医療機関を受診してください。
高血圧の標的臓器
高血圧が障害を及ぼす臓器(標的臓器)は脳、心臓、腎臓です。高血圧を放置したからといって、肺や肝臓や膵臓が悪くなることはありません。高血圧による脳卒中を事前に把握することは困難ですが、心臓と腎臓への障害と血管自体への障害については、早期に把握できる部分もありますので、それぞれについて説明します。
心臓
高血圧を放置すると心臓の左心室の筋肉が厚くなります。いくら血圧が高くても心臓は大動脈に血液を送らなければなりませんので、心臓の筋肉(心筋)が厚くなるのです。骨格筋が鍛えられることにより厚くなるのは良いことかもしれませんが、心筋が厚くなることは百害あって一利なしです。この状態は左室肥大と呼ばれます。心電図である程度評価できます。心電図で左室肥大が疑われる場合には心エコーで確認することができます。左室肥大があると左室の収縮能が保たれていても、左室の拡張能が障害されやすく、心不全を発症しやすくなるので注意が必要です。このように、高血圧症の管理には心電図が必須となります。
腎臓
高血圧による腎臓の障害は糸球体硬化症と言われ、蛋白尿が出現します。最近は慢性腎臓病が周知されるようになりましたが、クレアチニン値の上昇やeGFR(推定糸球体ろ過率)の低下よりも先に尿に蛋白尿が出現することが多いようです。その意味でも初期の段階での血液と尿検査は必須ですので、高血圧の方は尿検査を嫌がらないでください。そして腎機能障害が認められる時の降圧薬は腎保護効果のある薬の優先度が上がりますので、薬を変更する可能性も高くなります。
血管
血管については動脈硬化の進行度をチェックすることになります。血管全体の硬さをチェックするにはPWV(脈波速度)を、動脈壁の内膜肥厚や血管内プラークの検出には頸動脈エコー検査が行われます。詳細については「内科部長ブログ1 動脈硬化検査」をご参照ください。
脂質異常症Dyslipidemia
健診でコレステロールや中性脂肪という言葉をお聞きになられた方も多いと思います。これら血清脂質が正常範囲を超えて上昇している状態が脂質異常症です。
といっても血清脂質が高いこと自体の自覚症状は何ら認めないため、ついつい放置してしまうのもこの病気の特徴ですが、実は高血圧や糖尿病とともに、心筋梗塞・狭心症・脳梗塞といった動脈硬化疾患の主原因となる重要な病気なのです。当クリニックでは大学病院において動脈硬化疾患治療に長らく携わってきた専門医とともに、科学的根拠に基づいた診療ガイドラインに沿った生活指導・治療を行って参ります。
高尿酸血症 Hyperuricemia
痛風という病気をご存じでしょうか?これは血液中の尿酸という物質の濃度が高くなることで関節に析出・沈着して炎症を起こす病気です。
体質もありますが、男性に多く、飲酒量とも関係することが知られています。尿酸を高値の状態で放置していると痛風発作を起こしやすくなるだけではなく、動脈硬化疾患も起こしやすくなるため、血液検査で尿酸値が高いと指摘された方はぜひ一度ご相談下さい。
